居場所
ここの空気も久しぶりだな、とエリシェラントは門を見上げ、奥に広がる敷地を眺めた。
世界の中央に位置すると言われる大陸。そこにあるのは、神の涙学院。船着き場から、学院都市を抜けた先に、この学院は存在する。
「エリシエさまっ!」
格子門の向こうから呼ばれた声に、あら、と声を返す。
「ごきげんよう。元気でしたかしら?」
はいっ、と返事をした教員の笑顔を確認し、門が開くのを待つ。
「今日帰ってくると聞いていたので、待ってました!」
「あらあら。お休みの所すみませんわね」
門が開くなり隣に立ったその明るい笑顔に、ふふ、と笑い返す。今日はマリアベルの日。学院は教師も含めて休みになる。
「今回は、しばらく学院に滞在するんです?」
「そうですわねぇ、パリス次第ですかしら。魔術科の教師も何人か連れて、北のいつもの研究所に出向くそうですから。研究成果を学院の授業に落とし込むそうですわ」
蒼き炎と紅き風。学院と提携して魔術の研究を進めている研究所。資金援助も受けていて、学院卒業生の就職受け入れ先にもなっている。 新たな術や術式の研究成果は、学院の授業に取り入れられそうなら、取り入れる。
「それが一通り終わって、パリスが学院業務に戻られるまでは、学院長代理として滞在する予定ですわ」
「そっかぁ、じゃあ時間掛かるかもしれないですね」
にっこりと笑った相手に、まあ、と溢して。
「あんまり嬉しそうに言うものでもありませんわよ」
そう言ったエリシエもまた、笑みを浮かべていた。
西の国々を巡る旅も勿論性に合っているが、学院に戻ると、ホッとする。あるべき場所に、収まるような。それが、居場所というものなのか。帰る場所があるから、旅を楽しめる。
「滞在中は、また稽古つけてくださいね」
そう言う相手に、笑顔で頷きながら。
家族に会いに来たような、そんな暖かい気持ちを楽しんだ。
...end...
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