神涙図書室 | ナノ




  ため息の数★



 喧騒と殺気も遠くなり、どうやら彼女の興味は他へ移ったらしい。

(やれやれ、ですね)

 僕としたことが、と一息吐いて、場所を移ろうと立ち上がる。すると、当然のように後をついてくる気配。げんなりとして、しかし表情だけは笑顔のまま、できるだけ辛辣になるように言葉を紡ぐ。

「なんでまだ付いてくるんですか。ストーカーですか。犯罪ですか。男に言い寄られる趣味無いんですけどー」

 同じ人物から逃げていたルヴを見る。そんな理由もありしばらく男2人だけで岩影に隠れていたという、耐え難い事実。それだけでも不機嫌になるのに充分なのに、後をついてくるルヴは、不可解だ、とでも言うように言葉を返す。

「オズ、自分はオズに執拗な恋愛感情は抱いていないので、ストーカーという表現は正しくないと思いマス」

「あたりまえです。怖いこと言わないでもらえますか。分かってますよー。揶揄も通じないとか、頭機能してます?」

「いたって正常デス」

 けろっと言われてしまえば、オズワルドはため息を吐くしかない。こんな調子で一向にこちらの意図を汲まないルヴを、成す術なく、正直もてあましていた。

「じゃあそのいたって正常な頭にもう一度聞きますけど、なんで、付いてくるんですか」

「? 友人だからデス」

 さらりと、さも不思議そうに言われて、オズは一瞬だけ顔の笑みを消して、足を止めた。表情をつくり直して振り返った先では、ルヴが何か? とでも言うような顔で同じく足を止めた。保たれた一定の距離は、自分のパーソナルスペースを守るかのような丁度良い距離。図ってのことなのか本能的なものなのかは定かではないが、自分との距離感を掴み掛けられているかのようで、少し癪だ。

(良くもまぁ、恥ずかしげもなく)

 自分はとうに手放した感覚。今更取り戻すつもりも無いけれど、少しだけ気持ちがざわつくのは何故だろう。
 ため息を吐き出し、考える。もう一度振り返って、それでも付いてくるならもう好きにさせよう。そして今後の対策を考えよう。そんなふうに考えて、何も言わずに振り返って歩き出す。すると、何も言わずに、当然のように付いてくる気配。ああ、仕方がない。

 そう言えば、とオズワルドは空を見た。

(否定するのを忘れてしまいました)

 僕としたことが、と再びため息を吐いた。

「オズ、あまりため息を吐くと、幸せが逃げマス」

「余計なお世話ですよー」

 吐かざるを得ないのは、誰のせいだと。


 end  

 thank you
 文月ゆと様宅 ルヴ・ヴィヨンド






prev / next

[back]










* top *


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -