神涙図書室 | ナノ




  ごめんねという言葉が、やけに優しく響いた



 婚約が両国に発表された日の夜。

「ごめんね、アレス」

 泣き出す一歩手前みたいな顔で、姫、メルアスはそう言った。

「それでもあたしが好きなのは……」

 言わなくて良いよ、と首を振る。

「知ってる。知ってたよ」

 とうとう泣き出した姫に、まだ触れる事はできなくて。姫もまだ、自分にすがろうとはしない。ごめんね、を繰り返す姫の前に、ただ立ち尽くす。

(それでも俺は、君が好きだから)

 口に出し掛けた一言を飲み込んで。

「俺の方こそ、ごめんね。何もできなくて」

 零れた涙を拭う為だけに触れた。

「だからせめて、好きなままで良いよ。忘れようとしなくて良い」

 拭った以上の涙を溢しながら。ごめんね、を繰り返す彼女を見て。自分が何を言った所で、彼女を傷つける事にしかならないんだと悟る。

「ごめんね」

 その一言だけが優しく響く。
 いつか、傷つかないで笑える日まで。
 好き、の一言は飲み込んでおくから。

 ...end...





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