夢路

 

※錦輝で輝くん遊女の遊郭パロ



真っ赤な夢を見ました。
一面赤く色づいた紅葉が降りしきる夢でした。
唐紅の隙間に、チラリと見えたのはあなたの姿でした。
艶やかな秋の錦に呑まれることなく、凛とした姿で立っていらっしゃいました。濡れ羽色の髪の上でしっかりと結い、烏羽色の小袖の上に黒い羽織を纏ったあなたは周りのさまざまな赤を従えているようでした。
こちらからはあなたの後ろ姿しか見れず、お顔を一目見たくて、何度も何度も名前を呼ぼうとしました。
しかし、そのたびに一面の紅葉がさああっと僕の顔を覆うのです。まるで、あなたへ僕の声を届けまいとするように。それが辛くて、なんだか現での僕らの間を表してるようで。夢の中で泣いていました。泣きながら、それでも紅葉をかきわけてあなたへ少しでも近付こうともがいていました。
その時、あなたがふと、こちらを振り返ったのです。凛々しい眉をよせて、手にちいさな、まだ色づいていない楓の葉をのせて。普段は勇ましく、誰よりも大きく見えるあなたの姿がなぜか小さく、寂しげに見えました。
「輝」
もし、もし僕の見間違えでなかったなら、あなたはつらそうに僕の名前を呼んでいました。それと同時に、掌の中の若葉をいとおしそうに撫でて。
「錦様」
最後にそう叫んだときに、夢の中であなたはこちらを見て笑ってくださいました。しかしいつもの豪気でおおらかな笑みではなく、何かを堪えたような静かな笑みでした。

ああ、錦様。
遥か古の都では、夢の中に恋しい人が現れるのはお相手の方が自分を想ってくれている証だといわれていました。夢の中での逢引にすらいらしてくれないと嘆く歌もあります。
あの夢は、そうだと思ってよろしいのでしょうか。あなたが夢にいらしてくださるほどに、僕の事を考えてくださっているとそう思い込んでいいのでしょうか。
それだけで、僕はもうすべての辛さを忘れてしまえるほどに嬉しいのです。一介の遊女に過ぎない僕がこんなことを考えるのは分不相応というものでしょうけど、あなたをお待ち申し上げていいのだと信じられるのです。
錦様、僕はあなたのことをお慕い申し上げていいのですか…


そこまで綴って、輝は筆をおいた。
格子から射し込む光が文机の上の手紙を白く光らせていた。

「…こんなもの見せられない。」

元から見せようも無いけども、思い上がった自分をみっともなく思われれば嫌われてしまうかもしれない。
どんなに想っても、届かない想いはある。
元から叶わない恋だ。一介の遊女と、あちこちに馴染みの相手がいる客。きっと遊びだろうと輝だって思う。何度本気だといわれても信じきれない。
それでも。
今日のあの夢は、この場所で錦を待ちつづける決意をつくらせるのに十分なものだった。

「錦様、僕はこの場所であなたを待っています。たとえ、籠の中にいるとしてもあなたがいると信じられれば僕はもうなにもいりません。」

庭の赤く色づきだした紅葉を見ながら、輝はそう呟いた。
ですから、早く会いに来て、とぽつりと呟いて机に落ちてきた紅葉を大事そうに抱きしめた輝を、檻のむこうの光が照らし出していた。


夢辞をたどって、会いに行くよ


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