My thing is sweets!



「はい、ココア。」

「あ、ありがとうございます。」

そう言って一乃は南沢が差し出す白いマグカップを受け取った。マグカップから甘い匂いが立ち上る。良いにおい、そう思いながらも猫舌の一乃はいきなり口をつけることはせずに、慎重に冷ました。一乃がなんどもふぅふぅと息を吐き出す様子を見て、南沢はぷっと吹き出した。

「なんですか。何か悪いことしました?」

笑われたことにムッとした一乃はそう文句を言った。言われた南沢はなおも笑ったまま、一乃の髪をくしゃくしゃとかき回した。

「ごめんごめん。なんか子供みたいでかわいかったからな、つい。」

「…どうせ俺はお子様ですよ。」

ますますむくれた一乃はふいっと横を向いてしまった。少し膨らんだ頬が可愛らしくて、また南沢は笑ってしまう。

「悪かったって。別に馬鹿にしたわけじゃねぇよ。」

「笑いながら言われたら説得力ありませんよ、まったく。」


そう言いながらもようやく丁度いいぬるさになったココアを一口飲んで、一乃は笑みを浮かべた。舌に優しい甘さのそれは苛立った気持ちを溶かしていく。一乃はマグカップを手で包み込むように持ち直してから、ちらりと南沢を見た。

南沢は一乃と同じ白いマグカップを片手で持ちながら、もう片方の手で雑誌を読んでいた。後ろにあるベッドにもたれかかりながらページをめくる仕草も大人っぽく見える。マグカップに入っているのも一乃には苦いブラックコーヒーだ。雑誌からは目線をあげずにマグカップに口をつけてはゆっくり傾ける。白いマグカップが白い肌と黒いセーターに映える。なにかの写真のような光景にみいられていると、視線に気付いて南沢が一乃の方を向いた。

「どうした?」

あなたに見惚れてました、なんてまさか言えるわけがない。

「…よくブラックなんて苦いの飲めるなぁと思って。」

一乃が苦し紛れにそう言うと、ふーんと南沢は返事を返して、黒い水面を見つめた。そしておもむろに自分のカップを一乃に差し出した。

「お前には大人の味だろうけど、飲んでみる?」

一乃は一瞬ためらったが、ここで断ればまた子供とからかわれる。諦めてカップを受け取った。
白いカップになみなみと入ったブラックコーヒー。一乃は恐る恐る口をつけた。途端に広がる苦味。一口飲んで、一乃は苦い顔をしてカップを南沢に突き返した。


「…っが…」

眉間にシワがよる。口中に残った苦味を消すために一乃は自分のココアを口に運んだ。慣れた甘さが口の中に広がる。

「やっぱりまだコーヒーは早いな、一乃には。」

そうにやっと笑いながら、南沢も自分の口にコーヒーを運んだ。顔を歪めることなく、美味しそうにコーヒーを飲む。

「コーヒーの香りは好きですよ、俺だって。」

と一乃は呟く。

「落ち着く匂いだし、それに、なんか…」

なんか、のところからかたまった一乃を南沢はいぶかしげに見た。

「なんか…なんだよ、言えよ」

「いや、あの、やっぱいいです。気にしないでください。」

気にするな、と言われれば気になるもので、南沢が一乃を見つめると、一乃は赤い顔をして恥ずかしそうにうつむいた。たまらず、南沢がにじりよる。

「なぁ、続き言えよ。気になるだろ。」

耳元でそう囁けばぴくりと一乃の体が震えた。

「なぁって。」

なおもだんまりを続ける一乃にしつこく食い下がってみると、ようやく一乃が口を開いた。

「もっ、言いますからっ…囁かないでください…」

さらに真っ赤になっている一乃がかわいくて、南沢が頭を撫でてやりながら先を催促した。

「で、何?」

「…コーヒーって俺にとって、なんか、南沢さんのにおいで、だから好きだなぁって。」

ああ恥ずかしい!
一乃はここから逃げ出したくなる衝動にかられた。言った内容もそうだが、なんの反応も返ってこないことが一番恥ずかしい。もしかして引いてしまったんじゃ、と不安になって、一乃はちらりと南沢を見た。

「あの、南沢さん…?」

こちらをじっと見つめる瞳と目があった瞬間、一乃は引き寄せられてキスをされていた。後頭部を固定され、深いところまで南沢が侵入してくる。ほのかなコーヒーの香りと苦味がココアの甘さと溶けていく。ぐちゃぐちゃにかき回したあと、南沢は唇を離した。唾液が糸を引き、なんだか直視できなくなって一乃はまた視線をそらした。

「…俺の味はどうだった?」

見なくても分かるほど、にやけた声が上から降る。一乃は南沢の胸にだきついてぽそっと呟いた。

「…味も好きでした。」

途端にぎゅう、と抱き締められて、俺も、という小さな声を一乃は聞いた。






My thing is sweets!


(甘いものに目がないの!)
10/13 みななの日記念!





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