「霧野、少し付き合ってくれないか。」
練習後、そう神童に呼び出された霧野。
何かと思えば、自主練に付き合ってほしいという。
「どうした、やる気だな神童。」
そう笑いながら霧野はそれを快諾した。
今までの神童からは聞けなかったお願いだけに霧野は驚くと同時に嬉しかった。確実に神童は変わり始めている。
二人で誰もいないグラウンドに戻る。
ボールを追いかけている神童を見て、その真剣な顔に見惚れたのがいけなかった。
足に衝撃が走った。ぼんやりしていたせいでボールが足にぶつかったらしかった。
「霧野!」
慌てて神童がこちらへ走ってくる。
「霧野、すまない!大丈夫か、歩けるか?」
普段は落ちついている神童がここまで焦っているのを霧野は久々に見た。
「本当に、すまない。俺のせいだ。俺がボールをうまくコントロールできなかったせいで・・・。」
「いや、神童のせいじゃないさ。ボーッとしていた俺が悪いんだ。気にするな神童。」
「でも、」
「大丈夫だからさ。」
あんまりに神童が取り乱しているものだからいーっていーってと言いながら神童の背中をポンポンとたたいてやる。これじゃあどっちが怪我をしたのか分からない。
苦笑する蘭丸を神童が不思議そうに見る。
「・・・本当に大丈夫なのか?」
心配症だなぁ神童は、そう笑って蘭丸は靴下を下げて傷を見せた。ほんの少し血が出ているくらいで大したことはない。
「大丈夫だって!ほらかすり傷だろ?これくらいなら医務室に行かなくても―「ダメだ!」
突然大声を出されて、蘭丸は目を丸くした。
こんな迫力の神童はめったに見たことがない。
驚いていると、神童が手を差し出した。
「小さな傷だってどうなるか分からないだろ。ほら、医務室に行こう。」
差し出された手と真剣そのものの神童の顔を交互に見て、蘭丸は照れたように笑った。
「これじゃあいつもと立場が逆だな。」
普段は何かと気苦労も多くて泣き虫なキャプテンを心配するのが俺なのに!
そう大げさにため息をついて冗談めかして言うと
「たまには俺にだって心配させてくれよ。」
泣き虫なキャプテンがそういって困ったように笑った。
2011.08.13