相手は南沢篤志というらしい。
一乃はバイトが終わり家に帰りながら、このメアドをどうするべきか考えていた。こんなこと、はじめてだ。みんな有ることなんだろうか。というか、これはどんな意味で渡されたものなんだろう。まぁ、友達ということも考えられなくもないが、
「そういう意味、だよな」
所謂ナンパというものだということに一乃はやっと気付いていた。
初めてのナンパ、相手は男でしかもイケメン。メールしにくい要素が山のようにつまれていたけど、なぜか一乃は送ってみる気になっていた。
(まぁアイスもらっちゃったし)
一乃の左腕でアイスの入った袋が音をたてた。
案外人は食べ物でつれるものだ。
蒸し暑い夜を抜けて、家にたどり着いてシャワーまで浴びて万全の体制になってからアイスを取り出した。つめたい色をしたアイスはかじるとサクッと音をたてて口の中に溶けていく。甘すぎずさわやかな味。夏の醍醐味…!!一乃はテンションが上がっていた。
サクサクとかじりながら、メールを開く。紙に書かれたアドレスを打ち込んで一応登録をする。
(南沢さん、でいいか)
題名は…『コンビニの一乃です』とかでいいだろう。問題は本文だ。
何を書けばいいんだろう。一乃にはさっぱり分からなかった。
(自己紹介とかするべきなのか…でもなんかノリノリみたいなのはなぁ)
あくまでほんの好奇心程度なのだ。下手に食いつかれるのは困る。
考えた末、名前と『アイスありがとうございました』とだけ打った。我ながら愛想のないメールだと思うが、下手に打つよりはいいと思い込みながら送信を押した。
送ってしまえばなんということはなくて、一乃はいつの間にか潜めていた息を吐き出した。溶けかかっているアイスを大きくかじればシャリ、という音をたてた。
(メール返ってくるかな)
シャリ、シャリ
(なんか、返って来なかったらやだな。)
シャリ、シャリ
一乃はアイスを食べ終わってから勝手に裏切られた気分になっていた。
光らない携帯、鳴らない着信音。
はぁと一乃がため息をついたそのときに、小さく携帯は鳴り出した。
あわてて開いてメールを見ると、そこには自己紹介に対するツッコミなんか一言もなくてただ、『アイスおいしかった?』とだけ書かれていた。
なんだかその一言をあの人は柔らかい笑みで思ったんだろうな、そう一乃は考えると自然と返信をうちはじめていた。
『おいしかったです。
ソーダ好きです。
アイス好きなんですか。』
打ってから数分もたたないうちに携帯が鳴って、
『俺はストロベリーが好きだよ。』
その一言がストロベリーアイスの写真と一緒に送られてきた。
きっと食べたくなって開けたんだろうな、そう思うといまごろ幸せな気持ちでストロベリーアイスを食べているであろう人をなぜかいとおしく感じてしまった。
(まるで子供みたい)
ストロベリーアイス
‐‐‐‐‐‐
なんかアイスで盛り上がる変な二人。この話の南沢は割と純粋な感じ
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