蒸し暑い夜だった。外に立っているだけで汗が吹き出すような暑さに人々は顔をしかめながら歩く。そしてこんな暑い夜にはコンビニが街のオアシスになるわけで。

(なんでこんな日にシフトが入ってるんだろう )

いつもよりも多い客に一乃はうんざりしていた。混みあうレジが一段落すると一乃は首を回して、壁にかかる時計を見た。シフト終了まであと30分。

「よし。」

声をだして自分に気合いを入れる。あと30分、30分耐えれば家に帰れる。そうだこんなに暑いんだし、アイスを買って帰ろう。何がいいだろう。

(モナカ好きなんだよなぁ…でもなぁシャーベットとか爽やかだし…)


視線は自然とアイス売り場へ向かう。賑やかなアイス売り場でこっそり品定めをしていると、自動ドアが開き間の抜けた入店音が店内に響いた。

「、いらっしゃいませー」

一乃はワンテンポ遅れながらおざなりに声を上げた。
そうしてからまたアイスに思いを馳せる。

(チョコ系も捨てがたいし。でもまぁやっぱりこんなに暑いんだから)


ソーダが一番、そう結論づけた丁度そのとき。

目の前のレジ台に水色のパッケージのそれが置かれた。

「これ下さい。」

少し低めな声でそう言われてだらだらと一乃は冷たいそれをレジに通した。

「68円になります。」

チープなそれは学生に味方するように安くて、この安さがいいよなぁ、なんて思うのは相手も一緒みたいで、

「…こんなにこれ安かった?」


思わず、といった感じで漏れた声はさっきとは違って子供っぽかった。

「安いですよね。」

そう声を出したことに一乃が一番びっくりした。内気な自分が客に声をかけることなんて無かったのに。

上の方で客が笑った気がした。

(そういえばまだ顔も見てない)

なんだか笑い方が柔らかい気がして一乃は視線を上に上げた。視線を上げて、そのまま動けなくなった。

整った顔立ち、どこか色気を感じさせる瞳、紫の髪は濡れていてほのかにシャンプーの匂いがした。

(え、うわ、すごいイケメン)

そんな人と見つめ会うことなんて出来なくて、一乃は顔をまた下に向けた。なぜか顔が熱くなる。

「お客様、あの、代金を」

赤い顔を見せないように下を向いてぼそぼそとしゃべる。しかし客は動こうとしないし、自分でも聞こえたか不安になる。

「あのお客様」

意を決して客の顔を見たとき、客の手が一乃の腕をつかんだ。そのままレジ下から掌を引きずりだして白い紙を載せる。

「これ、俺のメアドだから」

「…は?」

鈍い一乃は自分がナンパされたことに気付かなかった。
そんな様子を面白そうに眺めてから、お釣りがないようにきっちり代金を置いて客は去っていった。「メール待ってるから」そんな一言を残して。

残されたのは一乃と汗をかいたアイス。手の上のメモには、「南沢篤志」という名前とメアド、「アイス、食べたそうだったから奢る。」という綺麗な筆跡が残っていた。



ソーダアイス


コンビニ店員一乃と客沢先輩。髪濡らしたまんまコンビニにくる南沢が書きたかった。






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