6月は雨の月だ。空にどんより立ちこめた雲と降りしきる雨で全てが煙る月。はっきり言ってじとじとしてるし、髪の毛は跳ねるし全然素敵な月じゃない。

そう、秋はひとり雨の中傘を回しながら愚痴た。赤い傘が灰色の世界で際立っている。

でも、

秋は傘の下から空を見上げた。

だからこそたまに見える青空は綺麗で、花の上に雫をのせた紫陽花はいっそう艶やかに見える。風は爽やかで雨で湿った髪を揺らしてく。空気が澄んでて…久しぶりの部活はいっそう楽しくなる。

まだ自分の中にあの、楽しかった夢中だった日々が色褪せずに残っていることに秋はくすりと笑った。懐かしそうな、切なそうな笑顔だった。
前を見れば、あのゴールがあったコートにみんながいるような気がして、互いを呼び合う声が聞こえるようで、彼が、あのゴールのところで笑っているような気がして。

いつしか秋は昔のことを思い出していた。


あれは今と同じ梅雨の時期だった。
円堂くんはいつも雨なんか気にせずグラウンドに飛び出していっていたけど、その日はバケツをひっくり返したような雨で流石の円堂くんも諦めてた。それで、なんとなく私と円堂くんは一緒に帰ることになった。
帰りながら何を話していたかはあんまり覚えてない。だけど何かの拍子にわたしはこんなことを言った。

「そういえば六月といえばジューンブライドだよね。」
「なんだそれ?なんかの特訓か?」

きょとんとした円堂くんの反応があんまり予想通りでおかしかった。

「円堂くんったらもう!本当にサッカーだけしか知らないんじゃないの?」
「なっ、そんなわけないだろ!」
「あはは、ごめんごめん…円堂くんサッカーのことだったら詳しいのにね」
「もういいだろー!・・・で、結局なんなんだ?」
「ん?んー…ジューンブライドってね六月の花嫁さんって意味でね、六月に結婚すると幸せになれるんだって。」

おんなのこの憧れ。
皆に祝福された笑顔を浮かべるところを私も夢見てた。

「いいなぁ・・・。やっぱり憧れだなぁ、好きな人のお嫁さんになるって。」

わたしはうっとりとそう呟いた。
対して、円堂くんは首をかしげてこう言った。

「そういうもんか、あんま分かんないな。」
「そりゃあ円堂くんは男の子だしね・・・あ、じゃあこう言ったら分かりやすいかも。花嫁とかお婿さんとか関係なく、毎日大好きな人と一緒にいれて、朝は一番最初におはようって言えて、夜になったら大好きな人の一日が終わる瞬間が自分っていう日常が続いていくのは、素敵でしょう?」

私にとってそれはただの、たとえ話だったはずだ。でも、そこに円堂君とそうなりたい、という願望はあった。円堂君との未来への淡い希望はあった。
その時も、円堂君がどんな表情をしているか知りたくて、となりの傘の円堂君の顔を覗き込んだ。

「確かに一日中、そうなったらいいよな。」

円堂君の顔は優しくて、嬉しそうで。
胸がチクチクして、締め付けられて、愛しくて、苦しかった。
将来、こんな顔をした円堂くんにキスされる人に私は嫉妬した。それが自分かもしれないのに。

・・・その時から、未来は決まっていたのかもしれない。


秋は頬をつたう涙を拭いもせずに河川敷を見つめていた。

なぜ、あの時手を伸ばさなかったんだろう、伝えなかったんだろう「あなたが好き。」と。伝えていたら未来は、私がとなりにいる未来は、あったのかな。

「円堂くん。」

私ね、あのときあなたに精一杯の告白をしてたの。六月の晴間の青い空には、サッカーボールの白も映えるけれど、ウエディングドレスの純白だって負けないわよって。あなたにおはようって言っておやすみって言える毎日を過ごしたいって。抱きしめて、囁いてもらいたかったの、「秋が好き。」って。
・・・今さら言っても、もう何もかも遅いよね。

「今でも好きです。」

今は伝えちゃいけない言葉を、秋はそっと過去にしまいこんだ。
あの日と同じ、六月の雨だけが秋の涙を見ていた。


雨にぬれたジューンブライド

王子様は、捕まえられずに








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