お雛様にはもうなれない


昔からキラキラした雛祭りが好きだった。
年に一回女の子のための特別な日。優雅に着飾った雛人形を赤い毛氈の上に並べて、ぼんぼりに明かりを灯した雛飾りの前で晴れ着を着てお祝いをするこのときは、自分が女に生まれたことを嬉しく思っていたのに。

今はもう、思えない。

「…搭子、どないしたん?」

となりに座るリカがそっと尋ねた。

「分かってるくせに。」

搭子がそう素っ気なく返すと、リカは何もいわずただ搭子の手の上に自分の手を重ねて、ぎゅうっと握った。
その手が痛々しくて、搭子はリカをどうしようもなく愛しく思った。切なく思った。

「ごめんね、私が女の子で。」

「…そんなん搭子が謝ること違うわ。それ言うならあたしも男に生まれたかった。」

手を握る二人の前には、二人が女であることを誇示するかのように、絢爛豪華な雛飾りがあった。

「やっぱり、雛祭りなんて嫌いだよ。」

女雛の隣には男雛。女雛が二つ並ぶことなんてない。それを見せつけられるお雛様なんて見たくない。女は男に嫁ぐのだと、したり顔で言うお雛様が嫌いだ。

でも、どんなに常識を見せられても私は他人を愛せない。お雛様にならなくていい、リカといっしょにいればそれでいい。

「リカ、やっぱり私リカが好きだよ。」

絡めた手を離せない。彼女が不幸になってしまうかもしれないのに。

私はお雛様に「ならなくていい」のじゃなくて「なれない」。

突然下を向いた搭子の顔を見て、リカは呆れた顔をした。そして絡めた手をほどくとその手で搭子を抱き締めた。

「…なんや知らんけど、搭子そんな泣きそうな顔せんといてや。うちだって搭子以外に幸せにしてもらおうなんて思ってへん。うちが好きなのは搭子やから」

だから、この手を離さんといて。

「リカ…」

搭子がリカの背に手を回した。

抱き締めあった二人はもう雛飾りなんて見ていなかった。ただお互いにしがみ付いて自分たちの世界を守っていた。


お雛様にはもうなれない
(お互いだけを見ておけば、嫌いなものを見ずにすむ)









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