5/26 (銅)



それは昼休みにサッカー部の奴らで集まって飯を食ってたときだった。
昼の教室は人が入り乱れてワイワイと騒いでいる。
俺が自分の席に座って、弁当を取り出して割り箸を割りながらボウッとそんなクラスを見ていると、ドン、と目の前に大量のパンや弁当が積み上げられた。

「おう、おかえり。買えたのか・・・は聞かなくても分かるな。」

目の前に椅子を引いてきてドカッと座った佐久間が笑った。

「いつもどおり。」

それから佐久間といっしょに購買に行った連中が帰ってきて俺の周りに座った。
いつからかは分からないが、いつの間にか日常になっていたチームメイトとの昼飯。
なんでもない平凡な日だと俺は思っていた。・・・佐久間が変なことを言い出さなければ。

「あ、そういや今日、源田の日だな。はいおめでと幸次郎くん。これ俺からのプレゼントな。」

そういってパンを投げてよこした。俺は反射でそれをキャッチしたが、自分でこれを貰う心当たりがない。

「なんだそれ、俺別に今日誕生日じゃねぇぞ。」

「お前誕生日二月だっけな。」

辺見がストローをくわえたまま言った。・・・行儀悪いぞ。

「俺だってんなこと分かってんだよ。さーて、これで分かるかな?」

佐久間がニヤニヤしながら、携帯の待ち受けをみんなの方に向けた。これといった特徴もない待ち受け。これのどこにヒントが・・・。
突然成神が「あっ」と声をあげた。

「そうか、そういうことだったんすね。確かに源田先輩の日っすね。」
「お、成神は気づいたか。だろー?これはもう源田の日って言うか幸次郎の日だけどな。」
「佐久間先輩ソレ言ったら流石にみんな気づきますよ。」

ん?「源田」というより「幸次郎」の日?
何となくひっかかって、俺はもう一度佐久間の携帯を見た。
今日は5月26日・・・5/26・・・

「・・・ああ、なんだ語呂合わせか。」

俺がそう言うと佐久間が頷いた。今日は5月26日。むりやり当て字で読むと5/
26は「こうじろう」と読める。なんていうか、よく気付くな、と妙な感心をしてしまった。
それでサッカー部内に一気に「源田の日」という認識が広まってしまって、俺は大量の菓子パンやらお菓子やらジュースやらをありがたく頂いたのだった。

   ********

夕日で染め上げられた教室で、俺は山のようなプレゼントを目の前にどうこれを持ち帰ればいいのか考えていた。
サッカー部の練習が終わった後に取りに帰ってきたのはいいけども、鞄の中にはすべて入りきりそうにない。俺が鞄の中の教科書と格闘していると、

「何やってんだお前。」

後ろからいきなり声をかけられた。
振り向くと鞄を手にした不動が立っていた。

「いやちょっとな、あれをどう持って帰ろうか考えてた。」

そういって山を見せると、不動はハンと笑った。

「あれがうわさの『源田の日』の貢物か?」
「貢物って言い方は仰々しいな。」

俺は苦笑した。
不動は机の上の山を見てポケットを探った。そしてポケットから発見された飴を山の中に投げ込んだ。

「やるよ。俺からも貢いでやる。」

その上から目線の言い方に思わず笑ってしまった。

「ははっ、ありがとな不動。」
「あと、ほらよ。」

そういって手渡されたのは紙袋。

「不動・・・!」
「別にたまたまあっただけだ。俺はいらねーし使えよ。じゃあな。」

そう言って不動はそそくさと帰ってしまった。夕日にまぎれてよく見えなかったけど、不動の耳は赤かった。・・・あいつはこういうことやりなれてないからなぁ。
一人クスクス笑っていると、突然視界が暗転した。

「だーれだ。」
「・・・聞くまでないな。お前以外にこういうことをする奴いるか、佐久間。」

後ろを見ると佐久間が帰り支度をして笑いながら立っていた。
帰ろーぜ、というのに俺は頷いて、不動がくれた紙袋にプレゼントを詰め込んだ。

   ********

チャリの荷台に荷物を乗っけて、二人で並んでチャリを押しながら歩く。
佐久間がチラチラと紙袋を見てくるので開いて中身を見せる。

「おお、お前かなり貰ってんなぁ。」
「お前が言いだしたことからこうなるとは思わなかった。喜んでいいのかなんなのか・・・。」
「まぁこういう風にキレイに語呂があう名前ってあんま思いつかねぇし、珍しくていいんじゃねぇの。」

そういって俺の紙袋をガサゴソと漁っていた佐久間が紙袋の底の方から、飴玉を見つけ出した。

「これなんだよ?」

赤い飴の包み紙があの時の不動の照れた顔を思い出させる。思わず笑ってしまった。

「いやそれは不動がくれたんだ。あいつって良い奴だよな。そのときのことを思い出してな。あいつ耳まで真っ赤になっててさ、ほんと「―面白くない。」

俺の話は佐久間の低い声で遮られた。

「なんだよ、佐久間ヤキモチか?」

そう、からかうつもりでいったのに、

「だったら悪いか。」

真面目に返されて、

「え。」

戸惑ってるうちに胸元をつかまれて、佐久間の顔が近付いてきて、

「――ッん」

噛みつくようにキスされた。
舌が入ったり出たり、舐められたり舐めたり、どれくらいそうしただろうか。
時間にして三十秒もないだろうに、俺には何時間もそうしていたように感じた。

「・・・なぁ源田。今日は確かに幸次郎の日だ。でもな。」

佐久間が下から上目づかいでニヤリと笑った。

「次郎の日でもあんだよ。だから、俺にもお返しくれよ。」

・・・なんだそういうことか。

「なんだ佐久間、お前お返しが欲しかったんだな。スマン、今は何も持ってないからあした渡すな!」

全然気付かなかった。そう言われればそうだ。なのに俺は貰ってばかりだった。それは佐久間も拗ねるはずだ。でも、

「そんなことでヤキモチを焼くなんて、佐久間もかわいいな。」

満面の笑みでそう言うと、佐久間がかなりガッカリした様子だった。

「分かってないな・・・あんなキスには応じんのに・・・なんで雰囲気を察しないんだよお前・・・。」
「?なんだ?」
「もう良いよ・・・。」

そこが源田の良いとこだしな・・・と残念そうに呟く佐久間が、何を指してそう言っているのか俺には分からなかった。

   ********

そんなこともあったなぁ、と十年前の出来事を思い出していた俺は知らず知らずのうちに笑ってしまっていたらしい。

「こんなときに笑うなんて、随分余裕だな源田さんよぉ。」

俺の上にのしかかった佐久間が唇を薄くあげて笑う。

「十年前の今日の事を思い出してたんだ。・・・覚えてるか、あの幸次郎の日。俺、お前に悪いことしたなぁ。」

あのときはまだそういう雰囲気を読めるほど大人ではなかったし、こういう行為に慣れていなかった。さぞかし佐久間はがっかりしただろう。
そう思っているとますますおかしくなって、笑いがこみあげてきた。

「っもう我慢できない。あー!あの頃の俺は純粋だったなぁ!アッハハハハ」

佐久間もそう思うだろ?

そう上に向けて笑うと、噛みつくようにキスされた。・・・どうやら俺も誘い方が分かってきたようだ。

「・・・昔が子どもだったってことは、今は大人なんだろ?」

唇から糸を垂らして、佐久間が―いまならわかる―雄の顔で笑った。

「じゃあ、俺にお菓子じゃなくて、大人のプレゼントをくれよ。次郎の日に免じて。」

俺も顔に笑みを浮かべた。

「なら、佐久間も、俺にくれよ?・・・今日は幸次郎の日だぞ。」
「お前の望むままに。」

そう言われて、唇に一つフレンチキスがおとされた。
そこからどんどん下へ下っていく唇を感じながら、目を閉じて俺の十年間について考えた。




5/26 (銅)
(俺の誕生石が俺の十年間を示してる。)

3日遅れだ・・・ごめん源田。ほんとにごめん愛してる(←
最後の言葉は少し情熱的すぎるかもしれないんですけど、まぁあんな意味があるなんて分かったら使いたくもなりますよね!
気になる人は「銅」の意味を調べてみてください。

  

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