とくべつな名前

なんで俺は教室の真ん中の席になってしまったのだろう。
席替えで不運にも教室のど真ん中になってしまった七助は自分を呪っていた。
真ん中の席が一番息がつまるのだ。授業で居眠りすればすぐにみつかってしまうし。
はあ、と思わずため息をついてしまった。周りはまだがやがやと席替えの余韻でうるさく騒いでいる。それに交る気にもなれず、七助は机の上につっぷつした。休憩時間まであと五分。先生も何もする気にはならなりらしい。

目を閉じる。今のまま疲れた状態でいるよりは、うるさすぎて眠れなくてもマジだ。
頭を動かして、ちょうど腕にしっくりくる場所を見つける。そうして目を閉じていると、不思議と浮かんでくるのは南沢の顔で。

(・・・そういえば昨日も一緒に帰れたな)

人といっしょにいるのがあまり得意ではない七助だが、南沢といるときは別だ。もちろん、南沢に対しても気を遣ったり、気まずさを感じないわけではない。むしろ他の人といる時以上にドキドキして落ちつかない。それでも、自分が話したことで南沢がなにかしら反応を返してくれるのが嬉しかった。

(やっぱ、好き、なのか)

ボーッとした頭で考えることにはあまりろくな結果にならないことが多いけど、今考えていることは少なくとも今の自分を幸せにはしている、そんなどうでもいいことを考えながら七助はぼんやりと時計を見上げた。

あと一分。

頭の中がなぜか昨日の下らない会話とか、南沢のボールを蹴る癖だとか、すべてが南沢にかんすることでいっぱいだった七助にはその一分はアッという間だった。
チャイムが鳴り響き、授業が終わる。と同時に一斉に生徒が動き出す。

(次の時間の準備しないと・・・なんだっけ・・・)

めんどくさいと思いつつ、顔をあげて何の気なしにふっと廊下を見た。大勢の生徒が行きかい混雑している廊下の中で、見覚えのある背中を見つけた。
今の今まで考えていた、先輩の背中を。

(こっち向かないかな、)

勿論そんな都合よく物事が進むと思ってなかった。漫画の中の世界じゃあるまいし。
だけど、今は、ここがすべて自分の思い通りに行く世界なのかと思ってしまた。
南沢が、こっちを向いて、目を合わせて笑いかけてくれたから。

「・・・せんぱい。」

小声で呟く。
声が聞こえなくても分かったようで、南沢も笑って「いちの。」と返してくれた。
そしてそのままどこかへ行ってしまった。

南沢がいってしまっても、しばらく七助はそこから目を離すことができなかった。
好きな人に呼ばれると、自分の名前も特別に聞こえるなんていう、女子の恋バナが真実味を帯びてきた。
一乃はじわじわと赤くなっている顔を隠すため、再び机に伏した。ああもう先輩ってすごいなぁ、かなわない、なんて思いながら。
そして、赤くなった顔を隠しにくいから、真ん中の席はやっぱり嫌いだ、と思った。





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