ふわり、ふわりと無数の光の玉がたゆたうこの空間に俺はどのくらいいたのだろう。(時間なんて感覚は最早持ち合わせてないんだけど)
あれから天界に戻った俺は昇ってきた無数の魂をもう一度下へ送り出す任につかされた。多分、これは必要以上に人に寄り添って、あげく人なんかに想いを寄せた俺への罰なんだろう。
何千、何万という人の魂一つ一つに残された「誰かを愛した、愛された記憶」を消していくなんて当て付けにしか思えない。未だに自分の気持ちを忘れることができない俺を笑ってるのだろう。
(・・・下衆な奴らめ。)
笑いたいなら笑え。この気持ちを知らない奴には言わせておけばいい。
そう思いながら手元にある魂を見つめた。
(ね、緑川。)
手の中で淡く輝くこの魂があの子のものと一目見てすぐに分かった。どんな姿でも愛しい緑川のことが分からないはずはないよ。
「どんな人生を送ってきたのかな・・・」
きっと可愛い子と恋をして、幸せな家庭を気づいてみんなにみとられたんだろうなぁ。
緑川にまた会えて本当に嬉しいよ。ね、緑川・・・
ふいにしずくが手のひらにぽたぽたおちた。
「あれ・・・?」
なんでこんなに幸せなのに心が苦しいの?なんで涙がこぼれるの?
「あはは、おかしいな。なんで泣いてるんだろ?ほんとバカだなぁ。」
ほんとうに今も思い続けるなんて俺はバカだ。
緑川はもはや何も覚えてないというのに。俺はどこにもいないというのに。
それでいいと思ったはずなのに、緑川と寄り添った女に嫉妬する。俺の知らない緑川の過ごした時間を見たくなる。
もはや、俺は天使なんかじゃない。
(・・・そのうち堕天するかもな)
もうそれでもいいや。どうせあの日、緑川に真実を伝えたその時から運命は変わったんだから。いっそ地獄の灼熱の炎に焼かれている方が気が紛れる。
「・・・その時は一緒に来てくれる?」
無理な願いと知りながら、それでも身勝手に奇跡を願う天使は静かに微笑んだ。
For the love of Heaven
for the love of Heaven―お願いだから。
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