*パラレル。エイリア学園なんてなくて、ただ普通に生活をおひさま園で送ってる二人









今日、今年初めての雪が降った。

「わ!ちょっとヒロト見てよ!雪積もってる!」

嬉しそうにはしゃぐ緑川。ふふ、子どもみたいだ。言ったら怒るから言わないけど。

「なんでそんなに雪くらいではしゃげるの、緑川は。」
「え、だってなんか冬!!って感じだろ、雪降ると。」

そう言って無邪気に笑う君が好きだよ。だから、もうやらなくちゃならない。
これ以上は辛すぎる。それに

「・・・この雪は多分催促状なんだろ?」

俺はそう呟いて手のひらについた雪を忌々しく見つめた。

  ********

「ヒロトっ!俺、あっちの方見に行きたい!」
「わかったわかった、ほら、行こう?」

その流れで緑川の手をさりげなく自分の手と絡ませると、途端に緑川は赤くなった。

「ひ、ヒロトっ。ちょっとここ人多いよ・・・!」
「大丈夫だって。みんな見てないし、それに」
 折角のデートだろ?

そう言えばさらに真っ赤になった緑川は下を向いて軽く首を縦にふった。
(周りから見たら、これどう思われてるんだろうな)
恋人同士には見えてないかもしれない。せっかく最後に恋人らしいことしよう、と思って遊園地にデートにきているのに。
そう思ってはあ、と白い息を吐いて隣の緑川を見ると、えらくご機嫌だった。

「そんなに楽しい?」

その問いに緑川はちょっとびっくりした顔をした。

「当たり前だろ?だってヒロトとこんな風に出かけるの久しぶりだし、初めてふたりで遊園地きたから!」
「緑川、なにそれ無意識なの?」

こんな風に言われるとこっちだって口が緩むじゃないか。
思わずにやける顔を隠すために目を緑川からそらすと、途端に目につく真っ白な雪。
そして、思い出す。自分が今日しなくちゃいけないことを。してることを。
だけど、どうか神様、今は許して。すべてを忘れて、ただの「基山ヒロト」でいさせてください。

「・・・うん、行こうか!緑川!今日は楽しもう!」


    ********


それから俺はすべて知らないふりをして、遊園地デートを楽しんだ。一緒にジェットコースターにのったり、こんなに寒いのに売ってたアイスを一つ買ってふたりで食べたり、お決まりの観覧車に乗ったり。

散々遊んで、帰る頃にはもうすっかりあたりは暗くなっていた。

「んー、遊んだ遊んだ!!おなかすいたなー、今日の夕飯なんだろ?早く帰ろう、ヒロト!」

何気なく言われた言葉に胸の痛みを覚えつつ、俺は言った。

「・・・そうだね、帰ろう。でもその前にちょっと公園寄っていかない?」

きみに、いわなきゃいけないことがあるんだ。



冷たい公園のベンチに並んで座ると俺は静かに切り出した。

「・・・今から言うこと信じてもらえる?」

隣の緑川の手をぎゅっと握ったら、ゆっくり握り返された。

「・・・なんでもいいよ、信じる。」

握り返された手を柔らかく振りほどいて、俺はベンチから立ち上がり数歩前へ出た。
そして、振り返った。

「実は俺天使なんだ・・・って言っても?」

一瞬あっけにとられた緑川の顔は次の瞬間には笑顔に変わっていた。

「何を言うかと思ったら!やめてよヒロト。ホントに心配しただろ!?」

楽しそうなその笑顔を壊したくはないんだよ?でも仕方ないんだ。

「ごめん緑川、証拠があるんだ。」

俺はそういうと、久しく動かしていなかった部分を動かした。

ファサッ・・・

何年ぶりかに広げられた羽はまだ真っ白できれいなままだった。
懐かしい感触を確かめるように何度か動かすと、緑川と向き合った。

「信じてくれるよね。」

自分の羽とまた降りだした雪が緑川を白く染めるなか、緑川は静かに泣いていた。
俺はその涙をそっとぬぐった。

「なぜかわからないんだけど、どうしても、涙が止まらないんだ。ねぇどうして?」
「・・・それはね、緑川が分かってるからだよ。こうなった以上、俺はもうここにはいられないって。」

いままでで一番情けない笑顔を浮かべると、緑川は目から涙を流しながら首をめいっぱい横に降ってしがみついてきた。

「嫌だよ、いかないでよ・・・っ。冗談でしょ?だってヒロトと俺らずっと一緒にいたじゃん、天使なんかじゃないよ!!お日さま園のみんなだってそう思うって!」
「でもね、緑川。もう君以外俺のことを『基山ヒロト』と認識してる人はいないんだ。みんな俺が記憶を消させてもらったよ。」

最後は君だけに見送ってほしかった。

そう言ったら緑川は信じられない、とでもいうように首をふった。

「じゃあ、もう父さんも瞳子さんも晴也も風介も治もヒロトのことを覚えてないの・・・?そんなの、ヒロトが ヒロトが」

後は涙につまって言葉が出せないというような緑川をぎゅうっと抱きしめる。こんなときでも俺のことを考えるなんて本当に優しすぎるよ、緑川。そんな風に優しいから天使なんかに好かれて、こうやって泣かされるんだよ。

しばらく緑川を抱きしめている間に雪はどんどんひどくなってきた。

「・・・うるさいな、これだから天使は嫌なんだ。感情なんて気にしてくれない。」

名残惜しいけど、そろそろ限界。俺はそっと緑川をはなした。と同時に俺の体が薄く輝きだす。

「もう行かなきゃ。大丈夫、すべて忘れるよ。俺がここから飛び去った瞬間すべて。」

天使は何も捧げられない、想いさえのこしておけない。
それはいいことかもしれないけど、ひどく切ないことに思えるんだ。結局すべては無駄だったんだ、と知らされるから。
そんなことを考えながら、最後に緑川の頭をなでて、おれは顔を背けた。

「じゃあ「ヒロトっ!」

そして別れを告げようとしたのに。なんで後ろ髪を引くの?

「俺・・・忘れたくない、ヒロトが好きだったこと。それにっこれからも、これからもヒロトをずっと好きでいたいんだ!」

そういって後ろから思い切り抱きつかれて、不意に泣きそうになった。

「俺はもう呼べなくても、『ヒロト』って名前覚えときたいよ・・・!」

背中に熱い君の涙を感じた。前に回された手がぎゅうっとさらに強く結び付く。
こんなにも「ヒロト」という記号をいとおしく思えたのは初めてだ。きみが呼ぶその名は、俺にこの行為は感情は無駄じゃないといま、気づかせてくれた。

「リュージ、こっちを向いてよ。」

あと少ししか残らなくても伝えたいことがある。
外した手を自分の手で包んだ。そして、まっすぐ緑川の目を見つめた。

「好きだよ、いつまでも」

緑川の目から新しい涙がこぼれおちる前にすばやく口を塞いだ。最初で最後の口付けはしょっぱくて苦しかった。




に捧げられるのは

「・・・あれ、俺こんなとこでなにしてたんだっけ?」

あたり一面真っ白な雪のなかで緑川は目を覚ました。なぜか目が痛くてさわってみるとかすかに腫れていた。

「なんか泣いたのかな?」

あと何か、大切なことを忘れているような気がしたけど、思い出せるのはのは真っ白な羽だけだった。





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