小さな誠 | ナノ

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 それはある日のこと。弱小特異点も観測されていない様な平和な時間が流れている中でも鍛錬を忘れない男が二人、神経を研ぎ澄ませて刀を交えていた。マイルーム内で響く小さくも鋭い命の削り合いの音…そして勝負がつくのは何時だって一瞬だ。鋭い音と共にちびはじめちゃんの手から刀が吹き飛ばされると、その場を支配していた張り詰めた空気が一瞬で緩む。

「だぁ〜!あと一瞬早かったら勝てたのに!」
「馬鹿を言うな、あと少しでも俺が踏み込んでいたらお前の首と胴体はお別れ直前だったろうが」
「はいはい、相変わらず副長は厳しいこって…」

 軽口を交わしながら武器を収める。そして緩んだ空気の中で辺りを見渡したちびはじめちゃんが、ふと目についたとんしょ敷地内に居る黄色いミニチュア魔神柱を指差して聞く。

「そういや副長、アレなんです?門番にしては斬新すぎません?」
「あぁ…アレか。……そういやアレ何だ?とんしょ内には沢庵製作所があるからな…色が似てるからてっきり沢庵の妖怪かなんかだと思って新撰組の一員として数えてたんだが…そういや正体に言及したこたぁないな」
「え、嘘でしょ副長。ちょっと節操なしの考えなし過ぎるっしょ、俺アレと一緒とか嫌ですよ」
「そうだな、そろそろアレの処遇をきちっと決めるか…俺としては…そうだな。沢庵にするべきだと思う」

 土方ちびさんの発言に呆れた顔をしたちびはじめちゃんは、その言葉を聞いて信じられないものを見るような目で尊敬できるはずの副長を見詰める。しかし、土方ちびさんの目は本気だ。信じられないことに、魔神柱を沢庵へと改造するという普通では考えられない様なことを彼は本気でやる気らしい。既に沢庵の作り方をブツブツと呟きながらおさらいまでしてやる気満々だ。

 こうなると土方ちびさんが引かないことを身を以て知っているちびはじめちゃんは、深い深い溜息を吐くと仕方無しにその魔改造計画を練る輪に加わった。近くに居れば行き過ぎないよう止めやすいと考えてのことだったが、後に彼はそれをとても後悔する羽目になるとはその時は少しも思っていなかった。いや、少しは思っていたかもしれないが…彼はツッコミの面倒臭さから、その事実から目を背け現実逃避していた。

 まず土方ちびさんが着手したのは、そのミニチュア魔神柱の生態調査からだった。敵を知らなければ対策は立てれないとバーサーカーとは思えない理性的な発言をしているが、その根本がまずおかしいことには気付かない。それに粛々と付き合うちびはじめちゃん。

 しばらく観察していたが、どうもミニチュア魔神柱はしっかりと意思を持ってとんしょを守っている様に見受けられた。小さな虫がとんしょの敷地内に入ってこようものならば直様どうやっているのかその場へ急行し、その虫を自身の体内へと取り込んでいる。なかなかどうして真剣に新撰組の一員としてしっかりと働いているらしいミニチュア魔神柱を見て、ちびはじめちゃんは感心したかの様に溜息を漏らす。

「はぁ〜…アイツなかなか働き者ですね…ちょっと変わった門番のままで良い気がしてきましたよ。んで?観察したは良いですけど、結局アレどうするんですか副長。俺としては見廻り中にとんしょを守ってくれているならこれまで通り利用するべきだと思いますが…」
「そうだな…確かアイツはなかなか再生力が高かったはずだ…ちょっと手を加えたらどうにか無限湧き沢庵的なものになると思わねぇか?」
「俺の話し聞いてました?ならねぇと思います」

 土方ちびさんの突然のとんでもない発言に、ちびはじめちゃんは食い気味に否定するが、困ったことに土方歳三という英霊はバーサーカーとして降りてきている。もちろん、このちびはじめちゃんの否定の言葉なんて聞いちゃいねぇとばかりに土方ちびさんは独自の持論を展開していく。

「まずはアイツの味を知らなきゃどうにもならねぇな…よし、斎藤ちょっと行って切り取ってこい」
「嫌ですよ!俺人専門なんで!!副長行ってくださいよ!!」
「しかしアレ、大根だと仮定すると下の方の辛いとこが上に出てるんじゃねぇか?そうなると味の善し悪しの確認もしたいし、下の方のサンプルも欲しいな」
「あんた、あの気味の悪い生物見てよく大根だと仮定出来ましたね?脳内どうなってるんで?」

 ちびはじめちゃんの必死のツッコミを無視して土方ちびさんの考察は進む。しかし、新撰組とんしょ内には魔術に精通した者は居ない。なんせセイバーとバーサーカーだ。来歴からも魔術とは程遠く、魔神柱の性質を変化させる等という高度な魔術知識と膨大な魔力が必要そうなことは専門外といえる。

 そもそもいくら小さくなっているとはいえ、敵対生物だった魔神柱は食べるものではない。しかし、その当たり前の事実は、バーサーカーである土方ちびさんには関係ない様子だ。まあ、元々レイシフトしちゃえばワイバーンなんかを食べることもあるため、元の霊器から受け継がれる知識の偏りが激しいちびさんたちには敵対生物イコール食べ物となっていても仕方のないことにも思える。

「俺としちゃ、取り敢えず先端真ん中下部を切り取ってサンプルとして持って行って厨房組と相談すりゃあどうにかなるんじゃねぇかと思うんだが…」
「俺としては、仮に切り取れて持って行ったとしても厨房組がすぐさま生ゴミボックスに叩き込む未来が見えますがねぇ…」
「アイツ等が食材を無駄にする訳がないだろう、さっさと切り取りに行くぞ」
「いやぁ…アレ食材判定受けれますかね?というか獲るにしたってアイツなかなかの働き者ですよ、本気で狩るんです?」
「俺は常に本気だ」
「あ、はい」

 あまりにも真剣で真っ直ぐな瞳と声音に思わずちびはじめちゃんも肯定の返事をしてしまう。その返事に満足そうに頷くと土方ちびさんはちびはじめちゃんに向かって指示を出す。

「お前は修練場側から回り込め、俺は正面から行く」
「あ〜…はいはい、もう副長の気が済むまで付き合いますよ……じゃあしくじらないでくださいよっと」

 そう言い残すと、いやいやとはいえ自身の上司からの指示にキビキビと従い素早く気取られない様に回り込むちびはじめちゃん。そのちびはじめちゃんが直様斬り掛かれる位置まで移動したのを確認すると、土方ちびさんは早速とばかりに踏み込んだ勢いでとんしょの土が抉れ飛ぶ程の勢いでミニチュア魔神柱へと斬り掛かる。

 そして、その土方ちびさんの動きに合わせて反対側からちびはじめちゃんも素早く斬り込む。「どりゃあぁあぁ!!」と二人の気合の入った掛け声と共に二振りの刀がミニチュア魔神柱を襲う。だが、小さいとはいえ魔神柱。ピギッ!?と小さな悲鳴一つ上げただけで、あまりダメージを負っていない様子。

 その様子に火がついたのか、土方ちびさんが本腰を入れてミニチュア魔神柱を斬ろうと気合を入れ直した瞬間。マイルームにマスターが戻ってきた。そしてミニチュア魔神柱に刀を向けている土方ちびさんを見て慌てて止める。

「コラ!駄目だよ、土方ちびさん!自分でミニドラスの面倒は新撰組でみるって言ったんだから責任持ってお世話しないと!なんで刀なんか向けてるの!」

 そのマスターの言葉にあぁそういえばといった顔をする土方ちびさん。直様武器を収めると小さく「まあ沢庵は沢山あるしな」と呟いてミニチュア魔神柱を沢庵へと改造するという訳の分からない行動をやめた。ちびはじめちゃんもマスターの言葉一つで刀を収めた副長に対して何かもの言いたげにしながら自身も刀を収める。

 こうして、土方ちびさんのミニチュア魔神柱沢庵化計画は頓挫した。結果としては、ただただちびはじめちゃんがツッコミ疲れをしただけという散々なものだった。

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