短編 | ナノ

Novel
Short Story

 いつも世話になっているから。
 そう言って毎年バレンタインになるとシャンクスはベックマンに贈り物をする。それは書き味の良いペンだったり、いつも吸ってる煙草だったり、煙草周りの小物だったり。実用品が多い。なんってったってその日暮らしの海賊稼業。海の上では余計な物なんて持っていられない。けれど、それも何十年と続けばネタも尽きると言うもので。シャンクスは今年の贈り物について迷っていた。

 お洒落なベックマンには拘りがあるだろうと香水や整髪料は下手な物は渡せない。花なんて飾るタチでもないし柄でもないから何となく恥ずかしい。それにベックマンはシャンクスが渡す細々としたプレゼントを全て使って、使えなくなっても大切にとってあるのだ。そんな健気な事をされると、何となく下手な物は渡せない男のプライドが刺激されるってもんである。だって出会った当初の常に金欠だった頃に買った安物のペンもまだ大切に使っているのだ。自分の右腕がそうやって大切にしてくれる物を自分だって大切に選びたいと思うのは普通のことだろう?そう考えるシャンクスはたまたま着いた島で色んな店を冷やかして歩いていた。

 今年は何が良いんだろうか。うろちょろしていれば親切な島民がどうかしたのか?と聞いてくれた。渡りに船だと贈り物を探していると言えば、その島民はなら…とその島特産のブリザードフラワーとやらを紹介してくれた。詳しく聞くと、花を特殊な液に浸して美しい状態のまま保つ物らしい。花なんか柄じゃないとは思っていたが、一輪だけでもなかなか見栄えが良いらしいそれは、今年のプレゼントに相応しい気がした。早速専門の店を教えて貰い、店内に並べられた様々な花を眺めてはどれがベックマンに相応しいか考える。

 やはり薔薇が多いんだなと思いつつ、確か花ってのは花言葉とやらがなかったか?と聞き齧っただけの知識を思い出したシャンクスは店員に相談する。「感謝」と「愛情」関連の物で五センチ四方で収まる物はないかと。店員さんは時期も相まってか張り切って親身に相談に乗ってくれて、それなりに値は張ったが納得のいく物が出来上がった。ベックマンは知識欲が強いからもしかしたらこの小さな永遠の花束に込めた気持ちはすぐにバレるだろうが、それでもきっと受け入れて受け止めてくれるだろう。それだけの関係は築いて来た自信がある。受け取った時のベックマンの顔を想像しながら、綺麗に包装して貰ったそれを、落としたりしない様に気を付けて船に帰った。



おまけ:初めての感謝

 立ち上げたばかりの海賊団は常に金欠だ。余計な事に使うベリーは一ベリーだってなくて、船長といえど贅沢は出来ない。けれど、シャンクスはどうしてもたまたま知った「好きな人に感謝の気持ちや愛情を伝える日」だというバレンタインに、いつも苦労をかけているベックマンに贈り物がしたかった。

 色々考えたけど、実用品なら無駄遣いとは言われないだろうと、万年筆を買いに行った店で、シャンクスは少し固まる羽目になってしまった。思ったよりも高い…そう、万年筆はベックマンに似合いそうだと思う様なデザインの物は全てシャンクスの財布には重過ぎる値段だったのだ。うーんなんてケースの前で屈み込んで考えていると、店主であろうお爺さんが声をかけて来る。

「なんだい、そんなに唸って」
「いや、感謝の気持ちを伝える為にプレゼントを…と思ったんだが予算がな…」
「ふーむ。予算はどのくらいだい?…なるほど、それならこの辺の付けペンなら良い物が買えるよ」
「なるほど、ありがとうな!」

 言われた通り、シャンクスの予算に合った値段の物が並ぶ棚を物色する。するとパッと目についたのは、黒色の軸に細く白い波うった線の様な模様のある物。これだ!と思ったシャンクスはプレゼント用にと包装して貰って大切に懐に入れて帰った。その日、船に戻ってからベックマンに渡せば、思いの外喜ばれて驚いたが、その年以来シャンクスは絶対バレンタインにベックマンに贈り物を贈り続けている。だから、この時期になると、レッド・フォース号では珍しく分かりやすく何にするか頭を悩ませているシャンクスを楽し気に見守るベックマンの図が見られているんだとか。


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