短編 | ナノ

Novel
Short Story

 チリリーンと小さく風鈴が鳴り、夏特有の生温い風が通り抜ける。店内には色取り取りの駄菓子が所狭しと並べられており、軒先には木や紙で作られた素朴な玩具が吊り下げられ、如何にも昔ながらの商店にある駄菓子屋らしい風情を醸し出していた。

 そんな昔ながらの日本の駄菓子屋に居るにはあまりにも眩しすぎる金髪紅眼の見目麗しい青年と少年が物珍しそうに顔を突き合わせながら、色も形も様々なモノが並ぶ店内を見て回っている。好奇心に美しい紅眼を煌めかせた少年が、楽し気に笑いながら言う。

「色んな匂いが混ざり合って、独特の香りがするお店ですね」

 その言葉にイカ串系コーナー独特の香りに眉を顰めていた青年が小さくフンッと鼻を鳴らす。

「まあ、この辺りの菓子の薫りは些か頂けないがな」
「確かにちょっと馴染みのない変わった匂いですよね、買って行きます?」

 そう問う少年に対し青年は片眉を上げて如何にも心外だと言う表情を作ると、返事をしないまま別の棚の前へと移動した。その青年の態度に肩を竦めながら少年もまた別の棚の方へと移動する。二人は時折会話をしながらも商品を手に取っては棚に戻すことを繰り返し、狭い店内をあっという間に回りきるともう一度ぐるりと店内を見渡す。

 数拍置いて少年が「やっぱりコレですかね」と呟いて数歩踏み出すと、軒先に出されていた小型のディスプレイ冷蔵庫で冷やされている微かに緑がかった特徴的な青色の瓶を二本手に取った。

「マスターが言うには日本の夏の定番らしいですよ、コレ」

 そう言うと踵を返してレジへと向かった少年は、レジの手前の棚で少し立ち止まり鮮やかな赤色を内側に閉じ込めた大きなビー玉を手に取ってラムネと共にレジ台へと置く。スゥと軽く息を吸うと店の更に奥の方にある住居スペースに引っ込んでいた店主に聞こえるように「お会計お願いします!」と声をかけた。
少し間が空いて「はいはい」というのんびりした声と共に店主らしきお婆さんが姿を現す。そしてお客さんである二人を視界に入れると軽く目を見張った後、「まぁまぁえらい綺麗なお客様が来とるね、いらっしゃい」と微笑みながら挨拶を済ませた。

「はい、ラムネ二本とビー玉で合計三百円ね」
「……カードは使えないのか」
「こんな田舎の小さなお店で何を言っているんですか、あなたは!」

 手慣れた様子でレジを打ち、商品の袋詰めを行ったお婆さんはニコニコと仲睦まじい二人を見守る。
その視線に気付いた少年は、何処からともなく可愛らしいガマ口財布を取り出し素早く銀色の硬貨を三枚お婆さんに手渡すとラムネの袋とビー玉を受け取った。

「その硬貨もこの国の通貨として流通しているモノなのか…」
「カード派のあなたは使わないので知らないかもしれないですけど一般常識ですよ」

 呆れた声で少年が青年の深窓の御曹司的な発言に突っ込みを入れる。そして小さく溜息を吐くと、気を取り直した様子でお婆さんに向かって笑顔でお礼を告げて手を振りながら店を出た。日の光を遮っていた軒先から出た瞬間、肌を焼く強い日差しに目を細める。
じんわりと肌に纏わりつく湿度の高い風に辟易としながら歩き出した。

 途中、袋からラムネを取り出した少年が一本を青年へと押し付ける。
その突然の行為に「おい」と抗議の声を上げる青年を無視した少年は、歩きながら包装を剥がし付属のパーツで蓋になっているビー玉を押し込んだ。
途端に「プシュァ」と音を立てて溢れ出すラムネに慌てる少年。

「歩きながら飲むんて行儀が悪いことをするからだ、ほらコレを使え」

 呆れたように言いながらハンカチを差し出す青年に、少し不満気に頬を膨らませながら少年が言い返す。

「何言ってるんですか、ラムネは冷たい内に青空の下で飲むのがマナーなんですよ?郷に入っては郷に従えと言うじゃないですか、ほらあなたもブシュッと開けちゃってください!」
「そんなけったいなマナー、我は聞いたことがないがな…」
「良いから良いから!ほら、早くしないと温くなっちゃいますよ」

 ラムネを片手に仲睦まじい軽口の応酬が始まる。
──抜けるように青い空の下、平和なひと時の話。


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