短編 | ナノ

Novel
Short Story

 朝昼晩の一日きっかり三回噛まれるマーリンの話をしよう。

 始まりは確か、どうにかこうにか人理修復を終えて、一段落着いた頃だった。
朝起きてベッドから足を下ろした時のことだ。何処に潜んでいたのか、飛び出してきたキャスパリーグに、血は出ないが跡がくっきり残るほどの強さで足首を噛まれた。

 思わず呻きながら蹲ってしまった私を他所に、キャスパリーグは颯爽と部屋を去る。
部屋には「一体何だったんだ…」と呻く私だけが残されてしまった。

 次にキャスパリーグに襲撃されたのは、その日のお昼頃のことだった。
食堂で紅茶を嗜みながら目の保養を楽しんでいると、まるで狙ったかのようなタイミングでカップに口をつけた瞬間、今朝とは反対の足首をガブリとやられた。

 反射的に痛みに竦んだ身体。零れる紅茶。集まる「何をしてるんだお前」的な視線。
痛いやら熱いやらでてんわやんわな私。

そしてやはりキャスパリーグはそんな私を横目に軽やかな足取りで去っていった。

 暫く何故噛まれたのかを考えていたが、今までのようにキャスパリーグが自分の気持ちを伝えてくる訳でもなく…結局は機嫌でも悪かったのだろうと結論づけた。

 その夜のことだ。自室へと戻る道すがら、機嫌よく鼻歌を歌っていた私は後ろに迫る脅威に気付いていなかった。

「フォーーーウ!」という勇ましい鳴き声と同時に、またしても足首に激痛が走った。

 偶然なのか、狙ってのことか…朝に噛まれた場所とほぼ同じ位置を噛まれた私はその場に蹲る。
今回はすぐに逃げ出さず、わざわざ私の目の前にまで回り込んだキャスパリーグは、心做しか馬鹿にした顔で痛みのあまり蹲り動けない私を鼻で笑うかのように短く鳴く。

 そして止めとばかりに額に飛び蹴りを決め、素早く去っていった。
あとに残されたのは、情けなくも痛みで動けない私だけだった。

 以来、キャスパリーグは律儀に一日に三度、朝昼晩と私を一噛みして逃げるという行為を繰り返している。
もちろん私だって最大限避ける努力をしたが、小型の獣であるキャスパリーグの素早さには勝てず今の所毎日噛まれ続けているが…。

 初めは心配してくれたマスターやアルトリアにも…いや、アルトリアには初めからか…そこまでフォウくんを怒らせるなんてマーリン何しでかしたの?と聞かれる始末。
失礼だな、誓って言うが、私は毎日三回も噛まれるようなことなどしてないとも。

……多分、きっと…恐らく…?

そう訴えたが、マスターには胡乱気な瞳で見られた挙句、キャスパリーグには全力で助走をつけて蹴られてしまった。

 私がキャスパリーグに噛まれることにも慣れ、幾日か過ぎた頃。
もしかするとこの行為は小さなただの獣になってしまったキャスパリーグが、キャスパリーグたらしめる為の僅かな欠片なのかもしれないと思い当たった。

人とは、こんな時に感慨深くなったりするのだろうか…。まあ、何にせよ痛いのは嫌なので噛むのは辞めて欲しいかな…なあんて。



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