短編 | ナノ

Novel
Short Story

 弓ギルにゃんこたまの初めての大冒険の話をしよう。

彼は生粋の家猫で、まだ目も見えないよちよち歩きの頃から蝶よ花よと可愛がられて育ったこの家の王様です。

そして、何よりとても好奇心旺盛な猫でした。

 ある日の雨上がり。
空に今まで見たことがないアーチがかかっているのを見て、好奇心を刺激された弓ギルにゃんこたまは普段は興味を示さない外の世界に興味を持ちました。

 一度気になったものはとことん調べたい好奇心が旺盛なタイプの弓ギルにゃんこたまは、飼い主の隙をつき、外の世界へと飛び出してしまったのです。
初めて歩くアスファルトは固く、雨上がりのせいかそこかしこに水溜まりが出来ています。

 弓ギルにゃんこたまは、優雅に水溜まりを避けて歩きます。彼は空にかかるアーチの正体を明かしてやろうと、大いに張り切っていました。

その為にはまず、アーチの根元を目指します。

 暫く行くと、大きな道路に出ました。
そこにはビュンビュンと何やら大きな速いモノが走り回っています。弓ギルにゃんこたまは賢い猫なので、それが危険なモノであることを一目で見抜きました。

危険を避けてアーチの根本を目指す為、まずは攻略方法を探ろうと弓ギルにゃんこたまはその道に沿って歩き始めました。

街路樹のあるなかなかに緑豊かな場所です。

そこでも弓ギルにゃんこたまは、好奇心の赴くままに匂いを嗅いだりちょいちょいと突いたりして植物の調査などをしながら歩き回りました。

 時折空を見上げては、アーチのある場所を確認します。
それを四回程繰り返した時のことです。

弓ギルにゃんこたまが空を見上げると、忽然とアーチは消えてしまっていました。先程までは確かにあったのにです。

 驚いた弓ギルにゃんこたまは、急いで道を引き返してアーチを探します。
暫く道を行き来して探しても、アーチは見付からず、溜息を吐いた弓ギルにゃんこたまは潔く諦めることにしました。

 何よりも弓ギルにゃんこたまは、お腹が空いてきていたのです。
アーチの根本は見付けられませんでしたが、なかなかに有意義な時間を過ごせたとご満悦です。意気揚々と家へと帰ります。

 弓ギルにゃんこたまは賢いので、しっかりと帰り道は覚えています。

さて、弓ギルにゃんこたまが無事に家の前に着いた時です。
結構歩き回った為に、乱れてしまった毛並みを整えようと、何時もの様に毛繕いをしよう自分の身体を見下ろした弓ギルにゃんこたまは、身体中に見たことのない緑色の何かが引っ付いていることに気付きました。

 慌てて毛繕いをしますが、それはなかなかしつこく引っ付いており、思うように取れません。
それに、少しチクチクして舌が痛みます。

 弓ギルにゃんこたまが、一生懸命にその物体と格闘していると、外へ飛び出してしまった弓ギルにゃんこたまを探し回っていた飼い主が気落ちした表情で帰宅してきました。

 俯き加減に歩いていた飼い主は、家の前で必死に毛繕いをする弓ギルにゃんこたまを見て、思わず大きな声で叫びます。
その大きな声に反応して、声のした方を向いた弓ギルにゃんこたまは、声の主が自分の飼い主と分かると同時に、これをどうにかしろとばかりに飼い主に飛び付きました。
飛び付かれた飼い主は、自分の飼い猫の身体中に付いたくっつき虫に思わず笑い出してしまいました。

「そのくっつき虫を全部取ったらお風呂だな」

弓ギルにゃんこたまを抱き上げながら笑う飼い主は、それがお風呂嫌いの弓ギルにゃんこたまにとって何よりのお仕置きになるだろうと叱るの辞めてしまいました。

 そのせいで、痛い目をみてもなかなか懲りない弓ギルにゃんこたまの好奇心に今後も振り回されることになってしまうとは当時の飼い猫を無事に発見し安心したばかりの飼い主には思いもよらない事でした。

弓ギルにゃんこたまの初めての大冒険の話、おしまい。


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