「ねー、竜崎」
「………」
「最近ほんと寒いよねえ」
「………」
「あー、かわいい彼女が風邪ひいちゃうなぁ、それでもいいのかなぁー」
「………わかりました」
ついに折れた竜崎。
これ以上ないほどの嫌な顔を露骨に浮かべた彼は大きく溜め息をついた。彼女がさっきから何をそんなに熱心に話しているのかといえば『コタツ』をだせ、と言うものだった。竜崎にはもちろん『コタツ』のよさがわからなかったし、ましてや彼独特のあの座り方では、足を伸ばしてくつろぐ日本固有の文化を理解しろと言っても無理だったかもしれない。
ワタリに連絡してすぐに運ばれてきたそれは、でんっと部屋のスペースを陣取っている。
「竜崎も一緒に入ろう」
「嫌です」
コタツが運ばれてきて、すぐさま中に潜り込んだなまえは、ひょこっと首だけだして竜崎を見つめた。
「なんで!こんな暖かくて気持ちいいのに」
「嫌なものは、嫌です」
「頑固だね」
「どっちがですか」
「竜崎もはーいーろー」
「いーやーでーすー」
ガシッと彼女が竜崎の足を掴んでゆさゆさ揺すると、バランスを崩した彼はガンっといういい音と共に、顔からコタツの机に突っ込んだ。
「──つっ…」
「り、竜崎、ごめ…!ひっ!」
ゆらりと立ち上がった竜崎の目は、なんだかとっても不気味だった。思わず身をすくめた後、逃げだそうとばっと後ろを振り向いたけれど、あっさりと両肩を掴まれてしまう。
「……そんなに、暖まりたいんですか」
「いや!いいです!結構です!」
危険を察知してぶんぶんと横に首をふる。
そんな彼女を、竜崎は容赦なくコタツら引きずり出した。
「…さ、さむいっ!」
「コタツで暖まらなくても、そんなに暖まりたいのなら私が喜んでコタツになってあげます」
「ひいいっ…!!」
その後、部屋を見渡してもコタツが見当たることはなかった。
寒い冬の悲劇
2009