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「賭けをしようか◇」

変態ピエロがまたおかしな事を突然言い出した。ヒュッと綺麗な放物線を描いて投げられた一枚のトランプが、私の左頬のすぐ横を通って壁に突き刺さる。
危ないでしょ!乙女の顔に傷でもついたらどう責任とってくれるの!…なんてことは恐ろしくて口に出せるはずもないので、何とか彼から私の興味がそれることを願いつつさりげなく視線を外す。

「いやだ」

「しようよ☆」

「だから嫌だってい「質問には五秒以内に答えること。それと僕の望む答えをちゃんと返さないと怖い罰ゲームが待ってるから◇」」

ね?とヒソカはにっこり笑ったけれど、目が笑っていない。本気だ。


「…罰ゲームって何?」

諦めて恐る恐る聞くと彼は、それはお楽しみと嬉しそうに笑うだけ。
その笑い絶対ヤバイよ!今までの私の経験と本能が全力でそう訴えかけてくるのだけれど、ヒソカから逃げれるなんていう選択肢は私にはない。


「第一問◇」

尋常じゃない位に冷や汗を流しているわたしを余所に、ヒソカは長く骨ばった人差し指をすっとたてる。


「僕の名前は?◇」

「ヒ、ヒソカ…!」

「正解◇」


くっくっと楽しそうなヒソカ。な、何だこれ、何が始まるの!?新手の嫌がらせ!?怖すぎる早く解放されたい…!


「第二問。なまえは好きな人がいるの?◇」

は?いきなり質問が変わった…ってヒソカがカウントし始めてる!もう二秒しかないよ、ええと、えーと…!


「いっ…いる!」

何とか絞り出した答えにヒソカはへぇ、と少しだけ目を丸くした。けれど彼より驚いていたのは答えた私自身だ。罰ゲーム恐ろしさに勢いで「いる!」と叫んでしまったものの、好きだと自覚している人なんていない。

「っていうのは冗談で〜…」

「誰?」

はっと気が付くと目の前にヒソカの顔があった。近い。
いつもみたいにふざけた言い方じゃないし、さっきとは明らかに声の低さも表情も変わったヒソカに、何故かドキッとしてしまう。いやいや違う!これはドキッじゃなくてギクッ!の間違い!だって私が密かにドキドキするなんてありえないし、うん。


「え、えと、」

「残念…時間切れ◇」

そう囁くと同時に唇にそっと何かが触れた。
けれど直ぐにそれは離れてもう一度、今度はさっきよりもっと近い距離で彼は目を細めた。


「僕が好きなのはなまえだけどなまえは誰が好きだって?◇」

もうどうにかなってしまいそうな位に心臓の音が煩い。今までみたいに、この気持ちに気付かない振りをするのはもう無理みたいだ。言ってしまおうか。でも本当は私をからかってるんじゃないのかな、でも今なら正直になれそうな気がして意を決して口を開く。


「わ、私が好きなのはっ…」

最後まで言い終わらないうちに私の視界は暗転した。








確信のフライング
(これもきっと変態ピエロの計算のうちなんだわ!)




2008 だいぶ昔に書いたもの
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