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三秒、二秒、一秒、
柔らかいシーツの上に横たわったまま、視界の端で休むことなく動いている時計の秒針をずっと眺めていた。また一年が経った。

今まで時計に向けていた視線を隣で気持ちよさそうに眠っている彼女の方へと移す。何がそんなに楽しいのか、寝ている時まで時々幸せそうに笑っていた。

「間抜けな顔ですよ」

白い彼女の頬に手を伸ばして容赦なくつねってみると、むにゃむにゃとよく分からない言葉を発しながら少し眉間にシワを寄せた。一瞬起こしたかもしれないと思ったが、また幸せそうな顔ですやすやと一定の速度で寝息が聞こえてくる。もしかしたら自分は彼女に起きて欲しかったのかもしれないと思った。


「なまえ」

小さな声で、彼女の名前を呼んでみる。けれど相変わらず彼女はぐっすりと眠っていて夢の中にいるみたいだ。
まだ彼女と出会っていなかった一年前の事を考えると、時々怖くなる。こんな暖かさを知らなかった。知りたくもないと思っていた。けれど一年前まで自分に必要ないと思っていたものが今では一番失いたくないものになってしまった。彼女が消えてしまうのが、失ってしまうのが怖くてたまらない。
いつからこんな事を思うようになったのだろう。いつから自分はこんなに弱くなったのだろう。


「ふふっ」

突然彼女の体が小さく動いた。起きたのかと思って顔を覗き込んでみると、まだ眠っているようだ。笑っている。そういえばさっきから彼女は一体なんの夢を見ているのだろうか。なんの夢が彼女をそんなに幸せそうにさせるのだろう。


「エル…」


彼女の口からその言葉が聞こえた瞬間、息が止まりそうになった。そして、思わず口角が上がる。失いたくないものが出来た。自分は弱くなったのではない。命に懸けて守りたいものがあるから強くなれるのだとそう思う。
愛しくて思わず身を寄せて彼女を力一杯抱きしめた。今度こそ彼女は目を覚ますかもしれない。それでも構わない。目が覚めたら一番に言ってもらおう。やっぱり彼女の口から聞きたい。誕生日おめでとう、そう言って笑う彼女の笑顔が頭に浮かんだ。












生まれてから死ぬまで

(一生分の幸せが、今この瞬間に、)


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