「すき、きらい、すき、きら……」
指先からひらひらと、最後の花びらが地面に落ちるのを見届けたところで、私はハッと我にかえった。あれ、ちょっと待って。うん、ちょっと待って。…私は今、何をしてた?
恐る恐る視線を下に持っていくと、足元には散らばったたくさんの花びら。顔からサァーッと血の気が引いていく。もう、真っ青だ。
だって今どき花占いなんてする人、何処にいるだろうか…!
「先輩?」
「まごっ、孫兵くん…!」
振り返ると今一番いて欲しくない人がいた。私は不自然な笑みを顔に貼りつけたまま、足元に散らばった花びらを足でザッザッと砂をかけて隠す。危ない危ない!見られたら大変だった!
「どうしたの?何かあった?」
「いえ、たまたま通りかかったら名前先輩が見えたんで」
「そ、そっか!」
少し怪訝な顔をした孫兵くんが、私を窺うような目でじっと見つめている。なんだかそれが耐えられなくなって、顔にどんどん熱が集まっていくのがわかった。きっと顔は真っ赤になっているに違いない。
「名前先輩って面白いですよね」
「え?」
「顔が真っ青になったり真っ赤になったり、見てて飽きないです」
そう言って彼は、すとんと私の隣りに腰を下ろした。ち、近い。ドキドキする!ぐんぐんと加速する鼓動を感じていると、ふと頭の中に疑問が湧いた。ん?あれ、見てて飽きないって…
「…ねぇ、そういえば孫兵くんっていつからここにいたの?」
「名前先輩が花びらをブチブチちぎりだす前くらいからですか」
「みっ、見てたの!?」
「見てました」
耐えきれなくなって膝の間に顔をうずめる。もうやだ。わたし、消えたい。恥ずかしすぎる…!
「先輩、顔上げてください」
「いやだ」
「いいですか。花をあんなにブチブチちぎっちゃダメですよ。花が可哀想ですから」
「…はい。ごめんなさい」
「で、誰を占ってたんですか?」
孫兵くんの言葉に思わず顔をあげてしまった。孫兵くんは上を向いているから表情はわからない。
「僕が先輩の花占いの相手だったら、占う必要なんてなかったのに」
孫兵くんのその言葉が、わたしの周りの音や景色を全て止めた。まだ上を向いている彼の表情はわからない。ただ、サラサラと揺れる髪の毛の間から見えた、彼の赤く染まった耳を見て、少し泣きそうになった。
足元に落ちているたくさんの花びらが風で舞い上がる。優しい匂いがわたしの鼻先を掠めた。
テュルラッタ、
トゥルラタ
090325