短編 | ナノ



※成長六年


作法委員長の、ささや…コホン。いけないいけない。もしばれたら命が危ないので伏せ字にします。

S山くんに今日もいじめられました。
食堂で会ったとき「渡したいものがあるから、後で部屋に来てよ」と彼は私に向かって、にっこり笑いました。その時に怪しいなぁと気づけばよかったのに、バカな私は急いで残っているご飯をお腹に詰め込み、ささや…S山くんの部屋まで行きました。はいそうです、後はご想像の通りです。

まず部屋に足を踏み入れた瞬間、床の板がスコンと抜けました。あぁ、しまった!と思いました。それからはもう面白いくらいに彼の作ったカラクリに見事に掛かり、最終的にとりもちと白い粉で見るも無残な姿になりました。
そして彼は、怒りでわなわなと震える私を気にも止めず、だあいせいこう!と天井から降りてきて、それはそれは楽しそうに笑うのです。
私は今日こそガツンと言ってやろう!と意気込んで立ち上がりましたが、S山くんがポイッと何かが入った袋を投げつけてきたのでそれは出来ませんでした。「実戦で外出した時にたまたまもらったからあげる」早口でそれだけ言うと、すぐに私を部屋から追い出しました。

袋の中身は私の大好きな金平糖でした。
あれだけの事をされたのに、私の怒りの感情はすっかり何処かへ行ってしまいました。
いつもそうです。いつも結局許してしまうのです。でもきっとこれからも、私はS山くんを怒ることなんてできないと思います。なんでって、それは、





「何してんの?」
「ぎゃっ!」

まずい!そう思って咄嗟に机の上にダイブした。日記、これ見られたら死ぬ!恥ずかしすぎて死んでしまう!
しかし命懸けで守ろうとした私の日記は、S山…いや、笹山くんに呆気なく取り上げられました。さようなら、お父さんお母さん。短い人生でした。


「なにお前、日記なんかつけてるわけ?」
「いや、というかどうやってくのたま長屋に…!?」
「うるさい。吊し上げられたいの」

つ、吊し上げ!なにそれ、怖すぎるよ!
恐怖で竦み上がっている私を無視して、黙々と笹山くんは私の日記を読み始めている。あぁ…もうだめ。私は彼に吊し上げられて死んでしまうのか。


「ねぇ、このS山って誰?」
「え!えっとそれは……」
「どうやら名前は僕に吊し上げられたいみたいだね」
「ヒィ…!やっぱり!」

思わず自分の吊し上げられる姿を想像してしまい背筋が寒くなる。けれど次の彼の言葉に、私は耳をうたがった。


「でも今回だけは許してあげる」
「えっ!」
「最後の文は僕も一緒だから安心しなよね」

あっけにとられている私の手に日記を押し付けて、笹山くんが部屋から出て行く。
はて、そういえば私は最後に何を書いたんだっけ?と思いながらぺらぺらと紙をめくって、絶叫した。



でもきっとこれからも、私はS山くんを怒ることなんてできないと思います。なんでって、それは、私が笹山くんのことが大好きだからです。








君の世界 
で 
息をする 





100318
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -