短編 | ナノ



現パロ


「そ、曽良くん」
「なんですか」
「その、お願いがあるんですけど…」
「嫌です」
「ええっ!まだ何も言ってないのに!」

いつもと変わらない帰り道。だけど夕焼けがつくり出した私と曽良くんの影が、ずっと途切れなければいいなとか少しセンチメンタルで余計な事を考えてしまうのは、きっと今日が卒業式だったからだ。毎朝遅刻ギリギリにくぐった校門も、待ち合わせによく使った埃くさい下駄箱前もちょっとダサい制服も、今となっては愛おしく輝いて見えるからなんとも不思議である。えいっと足元の小石を蹴ると、カラカラと音を立てて溝に落ちた。と、同時に曽良くんが大きく溜め息をつく。

「お願いって何ですか」
「聞いてくれるの!?」
「くだらない事だったら鳩尾にチョップかましますよ」

そういってサッと手を構える曽良くん。もうチョップすることが前提な気もするのだけれど、ここで引き下がってしまえばあとで後悔することは目に見えている。今日を逃してしまえばきっともう一生出来ないことなのだ。制服を着ている曽良くんを見られるのは今日が最後。こうなったら曽良くんの断罪チョップを恐れていたってしょうがない。ええい、ままよ!チョップの一つや二つどんとこい!!


「プリクラを、一緒に撮りません、か?」
「………」

あ、露骨に嫌そうな顔した。飛んでくるだろうチョップに身構えていると、曽良くんは私を置いてスタスタと歩きだしてしまう。なんてこった放置プレイ…これは想定外だった。なんてことを思っていたら、彼はくるりと方向転換してあるお店に入っていく。その一連をぼけっと見ていた私はニヤけてしまう口元を隠すことも忘れて、慌てて追いかけた。



* * * * * * *


「ほんとに、いいの?」
「じゃあやめにしますか」
「いえ!ぜひお願いします!」

曽良くんの気が変わらないうちにチャリンチャリンと百円玉を投入する。曽良くんとプリクラを撮れるなら自腹四百円なんて安いものだ!っていうかこんなにすんなり一緒にプリクラを撮ってくれるだなんて思いもしてなかったなぁ…。眈々とボタンを押している曽良くんの横顔を伺ってみる。なんていうか今更だけど狭い密室に二人きりなわけで、ちょっとなんか、有り得ないくらいドキドキしてきた…これって、もしかしてすごく恋人っぽい?

「そんなアホ面で写るんですか」
「えっ!?」

にやけながら頭の中でそんな妄想を繰り広げているうちに、プリクラの機械は既に設定が完了されていた。全部曽良くんがやってくれたのだとわかって、ありがとうと言おうとした瞬間、画面を見て固まる。そして私は曽良くんに設定を任せきりにしてしまったことを後悔した。背景の色がすべて、黒とか緑の単色のような何とも微妙な色でチョイスされている。

「文句があるなら断罪しますよ」
「いえ滅相もございません」

後ろからの殺気に嫌な汗をかいていると、プリクラ機がやけにハイテンションなカウントダウンを始めた。そそっと曽良くんのとの距離を詰める。このプリクラは私の一生の宝物となるだろう。


「プリクラって」

『3!』

「?」

『2!』

「キスとかして写るもんなんじゃないですか?」

『1!』

「…え?」

『カシャ!!』







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110518
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