短編 | ナノ




「や、名前ちゃん」

「ひいぃっ…!」

偶然だなぁ、なんて棒読みで飄々と言ってのけたこの男。どう考えたって偶然じゃないでしょ!昨日も一昨日もその前の日も、にゅっと曲がり角からいきなり出てきて腰が抜けそうだったんですけど!

彼は右手を挙げて、スタスタとこちらに向かって歩いてくる。そして左手には、イチャイチャなんとかという怪しすぎる本……こんな人と関わるのは御免です。

ぐるんと180度方向転換して、早足で逃げる。いやだいやだ、正直私はカカシさんが苦手。あの無表情といい(っていうよりマスクでよくわかんない)何考えてるかなんてわかったもんじゃないし、わかりたくもない。最近なんか勝手に夢にまで出てくるものだから、目覚めは最悪で、寝不足なんです。


「どこ行くの?」

「……!」

あっさりと先回りをしたカカシさんは私の前に立って腕を組んだ。さすがエリート忍者…お団子屋さんアルバイトの一般市民である私がどうしたって彼にかなうはずがない。もう逃げられそうにはないなぁ、と観念した私は目を合わせないように下を向いて立ち止まった。カカシさんの瞳はどうにも苦手なのだ。


「えっと…待ち合わせ?」

嘘だけど。本当は家に帰ってごろごろする予定でした。

「へーぇ。で、誰と?」

心なしか『誰』と言う所が強く聞こえた。カカシさんは人の良さそうな雰囲気を醸し出しているものの、目が笑ってない…。

冷や汗だらだらの私の目の前で、カカシさんは急にポケットからごそごそと何かを取り出した。…まさか手裏剣!?いやいや、いくら忍者って言ったってカカシさんはそんなことする人じゃない…よね?…と警戒していたら、ポケットから出されたのはなんてことない紙切れだった。ちょっと、くしゃくしゃになってる。


「あげる〜」

「…?」

無造作に差し出されたそれを受け取って、目を通した私は思わず大声で叫んでしまった。道行く人の何人かが、なんだなんだと不思議そうに振り返る。


「これっ…!あのっ、」

「たまたま貰ったからね〜。名前ちゃん行きたいって言ってたでしょ」

こくこく、と首を縦に振って頷く。その紙切れはずっと行きたいと思っていた、一般人は到底入れなさそうな高級レストランの優待券が二枚。女の子なら誰でも憧れる素敵な外観と、美味しそうなスイーツが有名で雑誌に何度か掲載されていたやつだ。


「本当にありがとうございますっ!」

「別にいいよ。じゃあね」

「え」

それだけ言うとカカシさんは、すたすたと歩き出してしまった。もしかして、これを渡す為だけに来てくれたの、かな。きっとそうだよね。


「ちょ、ちょっと待って…!」

「なに?」

「あの、カカシさんも一緒に行きませんか?えと、二枚あるし…」

わ、私何言ってるんだろ!恥ずかしい恥ずかしい!絶対顔真っ赤だよ!一人パニックに陥っていると、カカシさんは少し上を向いてから、いいよ、と小さく笑った。

胸の高鳴りと熱が尋常じゃない。




あぁ、非常口はどこ!?
(もう君から抜け出すのは手遅れみたい)




カカシの策略です
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