「・・・また言えなかった」


馬鹿なのは私である。まんまと騙されてこんなところに落ちて色々見失ってしまった挙句また強がって一人を選んでしまった。
大量の自己主張の激しいケーキが私の胃と視界を占めていて少し気持ち悪い。一十木や一ノ瀬にしたことに対する報いが今やってきたらしい。


プールの底は寂しいもので、こんなに大きなテーブルとたくさんのケーキを並べているのにも関わらず椅子は三つしかない。これが私の世界というのならば私はとても哀れな人類だ。


泣いていた七海の顔を思い出す。泣き顔もまた可愛らしいものだったがやはりあまり気分はよろしくない。しかも七海の好きな人をここぞとばかりにいたぶってしまったのも激しく後悔している。あれではまさに嫉妬に狂った負け犬だ。
正直私だって七海と一緒にいたかったがどうしてもそう出来ない理由があった。私に弱い魔法は効かない。どうも私には弱い魔法を無効にする力がサタン様々から与えられており、セシルが私に勝つにはまず肉弾戦で私をぼこぼこにしなければならなかったのだ。そうなればセシルと七海によるコラボ魔法も多分大変頑張らないと効果がないはずなので、もしも私があのままだったら二人はとんでもない目にあってしまっていた。私が泥棒猫に負けるはずがない。
そして本当の理由。私は楽器の演奏が出来ないように学園内のあちこちと楽器達にちょっといたずらをしているらしい。これは私が浄化されるかくたばるかしないと解けない。


どうせもうちょっとすれば私はまたお人形さんに戻ってしまうから早くしなければ。ケーキを切っていたナイフを手に取った。べったりと白いクリームがついているがまあ仕方ない。


ナイフの切っ先を喉の中央に向ける。七海をまた泣かせることになるなとか聖川の妹見たかったなど最後になって色んなことを考えつつ、やっぱりこの際だから七海超愛してるぐらい言ってしまえば良かったと思う。神だってそれぐらいは許してくれただろうに。


「・・・うまくいかないものね」


次に生まれてくる時は絶対男がいい。男でまた早乙女学園に来て七海と出会って一緒にデビューしてスキャンダルを起こしてやる。


「本当に」


これこそ負け犬の遠吠えではないか。畜生。サタンがなるべく甘い死に方をしないように女神に祈り、ナイフを喉に刺す。骨を砕いて声帯に突き刺したそこから真っ赤な糸が溢れだして、桃色と紫色にすぐかき消されてしまう。



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