腹が立つこと。苛立つこと。悲しいこと。悔しいこと。どんなことがあっても我慢して飲み込まなければいけない時に私は大量の糖分摂取に走る。ひとつのテーブルの上に隙間なくパフェやケーキを並べ、甘ったるくて白くて生暖かいもので胃袋をこれ以上ないくらい虐め抜き生じる不愉快で馬鹿らしい感情を包む。元いた事務所ではこれをやる度に社長やその他社員から爆笑され、とことん素直になれない人類であると指をさされた。
仕事以外で嫌なことなんておきないと思っていたので今回のケースはいささか気持ちの準備が足りなかったこともありなかなか重いボディブローだったなとしみじみ振り返りながら早速パフェに付属したポッキーをぐわしと掴み貪る。別に美味しくはない。本来私はクッキー以外の甘いものがそんなに好きではない。味噌汁の方が好きだ。クッキーはもっと好きだが。


「やあレディ」


いつか勝手に話しかけてくる奴がくるだろうと思ったがなかなか早い登場である。多くの人間はこの惨劇に引いて一週間は見守った後私が落ち着いた頃にやってくるというのに。多分まだ10分も経っていない。
顔をあげる。
全体的にオレンジで激しく制服を着崩し胸板を主張した軟体動物が私の前にいる。


「ひとりで食事かい?それにしても・・・」


軟体動物は私が占領しているテーブルを見渡して、苦笑した。


「食べるのが好きなんだね」

「レン!!」


さてこの軟体動物をどうやって追い払うべきか熟考している間に赤い軟体動物が彼に駆け寄ってきた。増殖する軟体動物に私の血管も一本ぶつんと切れる。


「駄目だよ!その子男嫌いだから!!」


赤い軟体動物は珍しく気の利いたことを言った。軟体動物ながら学習能力は小指の先程はあるようだ。
しかしオレンジの軟体動物はふっと微笑んで軽く首を傾ける。


「でもひとりで食事なんて・・・。」


「黙れ軟体動物」


待っていても赤い軟体動物の忠告が無駄になりそうだったので私直々に釘を刺しに向かう。軟体動物と言った瞬間赤もオレンジもほぼ同時にきょとんとした。
大変不愉快である。ただでさえ苛々しているのにさすが空気の読めない生き物だ。


「気持ち悪いから早く消えてくれない?不愉快で食が進まない、邪魔」


チャラい奴にはこれぐらい言ってやらねば通じない。調子に乗る前に全身打撲程度には追い詰めておかなくては。そういう思いも込めて私は悲惨極まりない暴言を初対面の軟体動物に吐いた。
赤い軟体動物が顔色を真っ青にしている横でオレンジの軟体動物は変わらずぱっと笑った。軟体動物の腕についたアクセサリーがきらりと光る。


「そこまで言われたら仕方ない、じゃあレディまた今度ね」


私の血管を静かに流れていた血が逆流した。とんでもない防御力を誇る軟体動物が現れたと恐怖を感じる。赤い軟体動物の首根っこを掴んでどこかへ行くオレンジの軟体動物の背中を横目で見て、冷めきった指を小さなフォークに伸ばす。


早く飲み込まないと。溢れる。


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