後日私は学園内案内にて連れてこられたレコーディングルームにて何故かマイクの前に立っていた。
「名前ちゃん歌ってくれる?」
月宮林檎の楽しそうな顔と、声が聞こえる。
他人に比べて場慣れしているから何をしても大丈夫であろうという魂胆が見え見えだったが何も言わずにヘッドフォンを耳に付けた。
すぐに私の曲が流れてくる。この件についても一言言いたくて仕方なかったが私は言葉を飲み込んでいつもやっている仕事の通り、歌った。
歌い終わって月宮林檎に非難に満ちた目を向けたら彼は無邪気に笑い、体をくねらせる。
「やーんさすがね!!かわいかったわよ!まさに偶像って感じだったわ!」
それは嫌味だろうか。少し引っ掛かって、顔を歪ませてみるが奴の顔は変わらずにこにことしていた。
持っていたヘッドフォンを元の位置に戻してブースから出る。クラスメイトの拍手のなかに心配そうな表情の七海春歌を見つけた。
「ねぇ」
昨日の一件でかなりのダメージを受けてはいたがそんな顔をされては声をかけざるを得なかった。
「私の歌」
七海春歌が肩を震わせる。彼女と私をいくつもの視線が突き刺した。
「私の歌どうだった?」
「えっと」
迷ったように瞳を左右に動かした後、七海春歌は私を真っ直ぐに見つめた。
「かわいかったです。上手いとかじゃなくて単純に好きになる、歌・・・でも」
胸がずきんと音を立てる。
「い、言いづらいんですけど」
「貴女が見てない」
「なんだか不安定な・・・。」
私は動揺した。
「嫌」
思わず口をついで出てきたその言葉が七海春歌の顔をあげる。真っ青になった彼女は同じぐらいショックを受けている私をじっと見つめた。
その間に誰かが割り込んでくる。
「なんなのよあんた」
「昨日からやたらこの子に噛みついて」
攻撃的な目をした女の子は私から守るように七海春歌を背中に隠した。
イラッとした私を察したのか後ろの人類に手首を捕まれる。
振り向いたらこれまた赤い髪の男がいる。その男に押さえられていると認識した瞬間全身に電流が走った。
「七海が怖がってるからあんまり」
「男が触んな!!」
絶叫した後掴まれた手と反対の手で男の腕を掴み返し思いっきり振り回して男ごと前方にある壁に投げつけた。
素晴らしい速度で飛んでいき壁にめり込んだ男を二人の男が助けにいくのを目撃しながら冷や汗を垂らしがたがたと震えている我が腕を優しく撫でた。
その直後努力も虚しくもれなく薄い吐き気が襲ってきたので急いでレコーディングルームを退出しトイレに走る。
「・・・あー気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い最低だ何だあいつは」
捻った水道から溢れだしてくる水が私の腕を冷やす。吐きはしなかったが大変青くなった顔面に盛大な愚痴をこぼし、私は目を閉じる。ファンやそれなりに年上の男性はともかく男は嫌いだ。
水が、滑り落ちる。透明な粒のなかで反転した蛇口がねじ曲がっている。