「・・・おはよう」
前日にかけておいた携帯のアラームは予定通りの時刻にドナドナを流し、さすが聴いたら死にたくなる曲として有名なだけあって実に効果的であった。目覚めの悪い私でもかわいそうな子牛が運ばれていく絶望感に襲われながら起床し充分な準備を済ませて食堂へと向かうことが出来た。
食堂のとあるテーブルにはすでに七海春歌と愉快な仲間たちが膝に手をのせて待機しており、思わず吹き出しながら近づいて私は上記の挨拶を口にした。
瞳を輝かせて七海春歌が顔をあげ、横に座っていた女の子が飲んでいたと思われるオレンジジュースを軽く口から噴出した。
「おはようございます!」
「何なのその重装備は・・・。」
「これはね」
肩にかけていたバズーカを降ろして、空いている席、女の子の隣に座る。
「例えば天使の如く可愛い女の子がイケメン共に囲まれてきゃっきゃ言われているのを嫉妬したブス二名が余計なことやらかした時に即座に地平線の彼方まで吹き飛ばしてやろうと思って」
私の後ろで誰かが盛大に物を取りこぼす音が聞こえたが私はあえて確認しなかった。
女の子は私の横顔をじっと見つめている。
「そ、そう・・・。」
「名前ちゃんその格好かっこいいけど重くないのですか?」
「大丈夫、私が守るから」
「バズーカさんにひよこちゃんをぶら下げたらもっと可愛くなりますよ!」
「話が噛み合ってないわよあんた達」
「なんかまた濃い友達が出来たなあ」
私の前に座っている黄色い軟体動物が彼と同じ色をした丸い物体を私に差し出してくるのでしぶしぶながらもそれを貰い、バズーカの持ち手部分にぶら下げてみたが特に変化はなかった。黄色い軟体動物が嬉しそうににこにことしているのでそれ以上何も言えず、さて私も朝食を買いにいかねばと思い立った矢先あることを思い出した私は制服のポケットに手を突っ込んだ。
「そういえば」
返さなくてはいけないものがあるので、赤い軟体動物の隣に座っている某人類の横に立った。
「聖川、これを」
「ああ」
「相当洗ったから」
「ありがとう」
「いやこちらこそ」
ハンカチを返すと聖川はそれをポケットに丁寧にしまって味噌汁を飲む作業にまた戻った。
用事も終わったのでいざ朝食を迎えにいこうとしたら赤い軟体動物が満面の笑みで私を見上げてくる。
「マサは軟体動物じゃないの?」
「え?」
そういえば思わず名字で呼んでしまったような。
「・・・・・・。」
私は仏頂面でとりあえず頷いておく。
「軟体動物よ」
「でも聖川って」
「やりなおすから返して」
聖川はお椀を置いて、首を横に振る。
「もうしまった」
「出せ」
「朝食がなくなるぞ」
「それは困る」
今日はだし巻き卵な気分なのに食べ損ねてたまるものか。朝食は私の命である。
言いたいことは山程あったがとりあえず、急いで愛しの朝食を迎えに走った。
数分後、出来立てのだし巻き卵と味噌汁、ご飯が無事に我がお盆にのっている。
「・・・戻ってきたよ」
「おかえりなさい」
「うん、ただいま」
七海春歌のまぶしい笑顔がスキップでもしかねない心持ちの私を出迎えたので自然と私も電灯のような微笑を彼女に返した。
私と七海春歌を見守っていた女の子は呆れたような表情を浮かべる。
「あんたら何?新婚?」
「実は前世で恋人だったもので」
軽い冗談に、女の子はひらひらと手を振った。
「あーあーもういいから黙れ、早く食べちゃいなさい冷めるよ」
「分かったわマイスイートハニー」
「あんたは神宮寺か!!」
「私は将来トップアイドルになる男、名字名前よ」
「女だよあんたは!!」