泣き叫んでいる子供がいる。その子の親は困ったように顔を見合わせた後無言で子供の手を取った。小さな手は大きな手に絡め取られ何も抵抗出来ずにずるずると引っ張られていく。
歩いていく内に大きな屋敷が表れた。親は何事かを子供に熱弁した後、その子を置いて彼方へ消えた。何が何だか分からずすすり泣く子供を屋敷から飛び出してきた女と男児が見つけ、我先にと石を投げつける。投げつけられた石は見事ぽこぽこと子供に当たり、耐えられず子供は親が消えていった後を追いかけた。


暗闇のなかを走る。星も月もない重々しい空間を血を流しながら走り続ける。涙や鼻水が傷口に染み込んで辛かったが子供は走るのをやめなかった。ここでやめてしまえばまたあの女と男児が石を投げつけてくるのだと子供は直感していた。子供が走っている間は優しいピアノの音が子供の耳に聞こえていて子供は血や涙を拭い、それに合わせて大きな口を開いて歌った。でたらめな歌だったがピアノは勝手に演奏をやめたりしなかった。


粗末な母のサンダルが脱げて、裸足になる。足の裏に小さな針がいくつも刺さったような激痛が走るが子供は耐えた。走らねば本当に父と母と離ればなれになってしまう。


煤を塗りたくったように汚れた顔面に一筋の光が差した。
それは真正面に広がっている光から溢れているものであり、ようやく現れた出口に子供は顔を輝かせた。

この先に親がいるに違いない。子供は走る。頭から流れた血が首を通って服を汚す。光に手を伸ばす。柔らかい光源が子供をそっと抱き締めた。


夜を抜けた直後、透明な硝子の靴を履いた女の子が子供の前に現れた。手入れの行き届いた髪をゆるく揺らし、上等なドレスを着用して柔和な微笑みを浮かべているが足元にいる子供には気づいていない様子である。きょとんと見上げている子供を無視し、白いマイクを持って女の子は歌い始めた。


子供の耳に悪寒が走る。


最高の笑顔を振り撒いて精一杯の歌詞を紡いでいるのに、声はまるで金属と金属を擦り合わせたような音て、子供は顔面を真っ青にした。よくよく見ればこのステージ上にいる女の子と子供を除いて観客は一人もいない。それでも女の子は一生懸命に歌っており、子供は無性にそれを寂しいと感じた。
腕を伸ばして、彼女の腰に腕を回す。両親はいなかったが彼らを探すよりも彼女の傍にいなければと子供は痛感した。女の子は相変わらず子供に気づいていない。


またでたらめな歌を歌ってみたがピアノの音はやってこず、女の子の金属音だけが子供の傍にいた。



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