私は目を丸くしていた。
「パートナーを解消したい?」
「限界だって先生に訴えたらあんたの返答次第で構わないって」
丸くなった目の先には唇をぎゅっと噛み締めているパートナーがいる。やっと帰ってきたと思えば。月宮林檎に直訴する程嫌だったのか。突然のことなので少しはびっくりしたがまあ納得出来るし何となく予測していた事態なので私は頷いた。
「・・・そう」
「何が限界だったの?」
パートナーは目を吊り上げる。
「あんたの全て。平気そうな顔して何でもちゃっちゃっと片付けちゃって、私がどれだけ頑張っても私のこと褒めてもくれないし」
「褒められるためにやってるの?」
「そういうのじゃなくて少しは歩み寄って欲しいって」
「私のこと嫌いなのに?」
最後なのに嘘をつくなんて私のことを気遣っているのかそれとも自己防衛に走っているのか。近くに置いてあるぬいぐるみの鼻をつまんだ。
私の尋問に観念したようにパートナーは溜息をついて瞳を濁らせた。
「彼が」
「彼があんたのことばっかり」
「憧れの人と同じステージに立つんだって」
声に熱が込められる。
「私のこと見てない」
「あんたも」
「私のこと見てない」
どうも彼女のプライドを傷つけてしまったらしい。ぬいぐるみの真っ黒な目のなかで無表情の私が目線を左に向けたまま制止している。見てはいないが同じような火傷をしている。そう思った。
「・・・安心して」
パートナーが私をじっと見る。
私は男が苦手だし、何よりも。
「恋愛は校則で禁止されてるから」
私がそう言ってすぐに歯軋りの音がした。
「ばっかじゃないの!!!」
パートナーは立ち上がって顔を真っ赤にして憤怒し、机を両手で思いっきり叩いた。机が悲鳴をあげる。
「あんた本当に人間!?誰かのこと心から好きになったことないの!!?よくそんなに冷たいこと言えるわね親の顔が見てみたいわあーもう!!!」
髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回した後、しばらく立ち尽くし元いた椅子にぺたんと座り込み顔を伏せた。
「あんたのこと死ぬ程嫌い」
艶を失い、枯れてぼろぼろになった髪の毛の間から鋭く知能の高い獣のような目が私を睨み付けている。
「あんたなんかいなかったら良かったのに」
すごい恨まれようだが、私は彼女に同情した。今度は目線を右にやる。
「・・・貴女の好きと私の好きは違う」
「貴女の好きは私なんかいてもいなくても叶うよ」
「結局人間は手が届きそうなものしか好きにならないんだから」
手に取れない程、高い場所にあるぶどうは酸っぱい。そう思い込んで自分を慰めて手頃な位置にあるぶどうを美味しい美味しいといって持て囃す。芸能人やアイドルに恋をしてる人達だっていつか目を覚まし、結婚してしまう。
「私は」
同じクラスにいて。頑張ったら近くに行けて。
「手を」
「手を伸ばしても」
きっとその手が届いたところで。
それ以上、口には出さなかったが私が視線を落とした瞬間、パートナーは無言で部屋を出ていった。同じ火傷をしているのに共有出来ないのは結局私も彼女も他人だからである。