女の子がだいすき。いい香りがして柔らかくて温かい。自分で言うのもあれだが、女に不自由した経験がない。父親が医者で母親がデザイナー、金ならいくらでもある。でもこいつらを親だなんて思ったことは一度だってない。おれの家族は兄さん一人だけ…




いっそ兄さんも“あいつ”も嫌いになれたら楽なのに…そう思いながらも、正直な足は今日も家へ向かう。会いたくなくて、苦しくて、触れたくて、会いたい。




「あ!おかえりなさい」
「…ただいま“姉さん”」




くったくのない笑顔で「サンジくんに姉さんって呼ばれるのまだ慣れないな〜」と言いつつ頬を赤らめる彼女は、兄さんのお嫁さん。家族と呼べる唯一の兄さんの大切な“お嫁さん”




「今日はカレーだよ」
「え…また?」
「…レパートリーなくて悪かったわね」




むすっと頬を膨らまして拗ねる彼女を悪いけど年上だと思ったことない。初めて会ったときから、目が離せなくて惹かれてしょうがなかった。「おれもカレー作るの手伝うよ」そう言えばパァと笑って喜ぶ彼女がたまらなく愛しい。




――…彼女は兄さんの奥さんと分かっているのに……




何でおれが兄さんより早く生まれてこなかったんだろう、何で兄さんより早く彼女を好きにならなかったんだろう、何で兄さんの…奥さんなんだろう…




「サンジくん!」
「…え?、うわっ」
「消毒しなきゃ」
「舐めとけば…平気だよ」
「だめっ!」




料理の最中に手を切るなんて…らしくない…。滴る赤い液体を見ながら、痛みすら感じない指を口に運ぶ。ふわっと口に広がる鉄分すら、味を感じない…




「あ!」
「大丈夫だってば」
「……」
「ね」
「手ぇ貸して」
「え?」
「消毒、する」




今にも泣きそうな彼女に欲情するおれってなんなんだろうな、彼女の瞳に映る自分に問いかけ、返ってくるはずのない答えを待った。不器用ながらに指を消毒するぎこちない手、少し震えている睫毛、全部…全部…兄さんのもの………父さんも母さんも全部…




――…兄さんのもの…



まんまるの瞳がおれを見つめた。少しの沈黙が続いたあとブハッといきなり笑い初めて彼女はこう言った。「バカね」と。




「え?」
「ほんとバカ!」




頭をくしゃくしゃにされながら、いまだに笑う彼女を見て、なんだかこの胸に飛び込んで泣きつきたいような気持ちになった。




「サンジくんだから大切なのよ」




そう笑う彼女が今まで見たどの彼女よりもキレイで強かった。無性に抱きしめてたくなって出しかけた右手と「愛してる」という出かけた言葉。瞬間、兄さんの笑顔がちらついた。




「……おれも実の姉同然に……大切に思ってるよ」




この気持ちは一生誰にも話さないでおこう…胸に鉛のようなものを感じた。突き刺すような胸の痛みさえ愛しいおれはきっともうイカレテルに違いない。兄さんを迎えに玄関まで行く彼女の背中を見つめながら、頬に温かいものがつたったのを感じた。









世界で一番優しい嘘吐き








嘘つきピエロ症候群/そら様







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