今年の新入生達もまた随分と問題児だらけだ、とため息をついてしまった。学年主任のシャンクス先生には毎日迷惑をかけていて、でも大丈夫と毎日笑って許してくれるシャンクス先生に甘えてばかりだ。
2年目とは言え、いくらなんでも私は役不足すぎる。3年の副担なんか務まるわけがないのになんで私、よりにもよってあの問題児しかいないクラスの副担なんだろう。
自分の持ち教科の授業道具を揃えて教室に向かうものの、やはりため息しか出てこない。意気込んでも教室に入った途端にやる気を奪われるのだ。

「あ、なまえー!悪い、教科書忘れた!」
「おい副担、キッドの謹慎はいつになったら終わるんだ」
「なまえちゃんおはよー、あれ、今日ドレークいないの?」
「シャチ、なまえを労ってやれ」
「いいよペンギン君そんな哀れみの目を向けないで。」

ジュエリーさんやルフィ君はいつも教科書を持ってこないし、キラー君やペンギン君はそれぞれの親友のことで頭いっぱいだし(でも授業中は静かだから注意できない)、ユースタス君はまだ謹慎中で学校にすら来ていない。
そして一番の問題児は、窓側の席で穏やかに眠ってるトラファルガー君だ。いつも寝ているくせにテストは学年トップクラスだし、それに彼は、本当の意味で問題児なのだ。
なんとか授業を終わらせて放課後までは科学室の整理をしようと意気込んで6限目からずっと科学室に篭って普段なかなか出来ないホルマリン漬けの間まで隅々と掃除をしていく。
時間がかなり経過していたと気付いたのは、誰かがドアを開けたから。こんなところに来るのは同じ教科を持っているドレーク先生かな、と思えば、全然違った。

「やっぱりここにいたか。ったく、探させんなよ」
「っ!か、勝手に入ったら駄目でしょ・・・!」
「いいだろ、」

瓶を片手に入ってきた生徒を見て一瞬息を呑んだ。私の知る限りの一番の問題児、トラファルガー君がいるのだ。
彼はジリジリとにじりよる、なんて遠回しな真似はしない。ドアを閉めてずかずかと入ってくるなり、次の瓶を取ろうとした私の手を掴んだ。
そうして私が彼の顔を見ようとしないからか、腕を引っ張るのだ。大人の男性に近い力に抗えるはずもない。それも唐突すぎる力になんて。
背中は戸棚に押し付けられ、逃げ場がない。スカートタイプのスーツで来たことを心底後悔した。足の間には際どくトラファルガー君の足が入り込んでいる。

「ちょ、ちょっと!足!」
「悪いな、足長ぇからつい」
「ついでこんなことしない!退けて!」

フフ、と楽しそうに笑うトラファルガー君の顔を見るのはこれで何度目だろうか。整った顔が近付いてきて、思わずドキリとするがヒヤリともする。こんな現場を誰かに見られたら私の教師人生がすぐに終わってしまう。からかわれているだけなのにドキリとしてしまったりするのはいけないけれど。
しかしこの絶体絶命なピンチに何度巡りあえば良いのだろうか。もういい加減勘弁してほしい。趣味だとか楽しみだとか、そんなもので私の人生を狂わされてしまっては困る。君が嫁に迎えてくれるわけてもないだろうに。
引き吊る口許を気にしてはいられず、必死にトラファルガー君の肩を押す。利き腕を押さえられて力が出なさすぎて冷や汗が出そうになった。
密着した体に本格的に焦りを感じて思いっきり顔を背ければ、少しだけ無言になったトラファルガー君は突然、がら空きだった首筋をべろりと舐めた。

「っ・・・!や、やめ!」
「どれだけ我慢させたら気が済むんだ?いつまでもいつまでも、おれが待ってるだけだと思ったか」

謝る気なんて微塵も無さそうな声なのに、何処か寂しさを含んだような声に目を見開いた。するりと撫でられた頬。今までと違いあまりにも優しい触り方に恐る恐るトラファルガー君を見る。
・・・・・特に哀愁なんて感じられないいつもの凶悪面でニヤリと口許を吊り上げる笑い方をしていた。





塞がれた口にぬるりと侵入する舌の感覚は久しぶりで、私よりも年下だとは思えないほどの経験の持ち主だと思った。
あまりの激しさに息苦しくなって角度を変えるために離れたところですぐに名前を呼ぼうとしても呼べない。深く入り込むようなキスに呼吸が出来なくなってきた。
たまらず片手でトラファルガー君の肩を掴んだ。しかしそれは、すがるようにも見えるだろう。
ようやく離れたと思ったらジッと見詰めるトラファルガー君の目が鋭く、しかし口角の上がった顔はいつも通り。どきどきと心臓がうるさくなっていたのは、心に仕舞っておく。



20110706








欠陥品/幸様


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