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ステラ・ルーシェのお友だちだった、なにか


 ステラ。やわらかな髪は太陽のように眩く、あなたの瞳は母が身につけていたルべライトの指輪みたいだった。
 ステラ。あたしの友だち。あたしは潮の香りがすっかり抜け落ちた海風に吹かれるあなたの髪と、ラボからほんの少しだけ見える点のような海を、愛おしそうに見つめるあなたの瞳が好きだった。
 まるで遠い過去の話をしているみたい。あたしは今でもステラのことを大切な友だちだと思っている。にもかかわらず、冷たくなった指先はぴくりとも動かないし、あなたの淡雪のような響きを持つ名前を口にすることもできない。うつろに開いた目だけが、変わりゆくステラをじっと見つめている。まぶたを開けたまま閉じ込めてくれてありがとう、としみじみ感謝する日もある。微動だにしないこの眼球にも、視覚は残っているのだろうか? ラボの人たちに感謝すればいいのか、あたしには正直分からなかった。
 ステラはばら色の頬に血しぶきをまとわせたまま、あたしの目の前を素通りする。昨日も一昨日も、先週も、先月も、ひょっとすると一年前も、ずっとそうだった。ステラの愛らしい目に、あたしの姿が映る日はもう来ないのかもしれない。ステラは優秀だから、来週にはアウルやスティングとともにラボを出て、外の世界で生きていくのだそうだ。研究員たちがひそひそと話しているのを、聴覚が働いているとはとうてい思えない耳で聞いた。生体CPUとして適応できず廃棄処分となり、液浸標本のガラスの中に閉じ込められたあたしとは大違いだ。
 あなたは今日も、あたしの方を見なかった。声をあげれば見てくれる? この分厚くて透明な壁を思いきり叩けば、ステラはあたしを見てくれるのだろうか?
 あたしが命を落としたとき、あなたはうんと泣いた。得体のしれない死をひどく恐れた。あたしと過ごした記憶はステラの脳みそから削り取られ、もうすっかりなくなってしまったらしい。でも、分かるよ。廃棄処分になったお友だちなんか、いくら覚えていても仕方ないものね。

2024.04.29

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