ブーステッドマンと水族館へ行く
「見て、シラスがたくさんいる」
そう言って無数のシラスが泳ぎ回る水槽を指差すと、訝しげな表情を浮かべるシャニとオルガの顔がアクリルパネルの表面に映った。ガンを飛ばす二人の圧など気にも留めず、生まれたばかりの透明なシラスは細い体を目いっぱい動かしながら柔らかな光を放つ。
「こっちが大人のイワシ?」
シャニが隣の水槽を指差した。目の前のシラスより少し大きめの魚が、幾分か力強さを見せながら泳いでいる。オルガも腕を組みながらその水槽を覗き込み、関心の薄そうなトーンでぽつりとつぶやく。
「まだシラスだろ」
「一番端の水槽に大人のイワシが展示されてるって。あれ? クロトは?」
きょろきょろとあたりを見渡す。後ろを振り返ると、私たちの背中から一歩離れた位置に、ゲーム機を操作するクロトの姿があった。私と目を合わせたクロトは、「お腹すいた」と薄暗がりの中で顔をしかめる。その様子がまるで幼い子供のようだったので、私は思わず口元を緩めてしまう。
「俺も腹へったー」
「シラス丼食おうぜ。あっちにメシ食える店あっただろ」
シャニもオルガも口々に空腹を訴え、我先にと言わんばかりにレストランがある方へ向かっていく。あの二人は多分、この展示で食欲が刺激されたのだろう。続けてクロトも二人の後を追い、遅れる私を手招きした。
「早くしないとシラスなくなっちゃうよ」
「どんだけ食べるつもりなの」
「あの水槽のシラスも取って食っちゃうかもね」
勘弁して、と肩をすくめると、クロトはやっといたずらっぽく笑った。
2023.02.25
back