クロト・ブエルの手でおしまいになりたい
クロトと出会ったときからずっと、その手でわたしのすべてを終わらせてほしいと願っていた。命を砕くことでしか喜びを得られないあなたを、心の底から楽しませてあげたいと思っていた。あの透き通ったブルーの瞳に、ちりぢりに崩れていくわたしの姿が映ることを渇望していた。わたしは、わたしがコーディネイターとして生まれた理由を、ようやく理解した。
煙るモニターに、黒い猛禽類のような機体が映し出される。やっと、パイロットとしてのあなたに会えた。全身の血がまたたく間に沸騰し、乾いた口元はやわらかく綻ぶ。
演習の的めがけて、レイダーが禍々しい破砕球を打ち付ける。今までに経験したことのない衝撃がコックピットを激しく揺さぶり、あたりは爆風と炎に包まれた。
ショート寸前のスピーカーから、朗らかさとは程遠い笑い声が漏れ聞こえる。ああ、神様! 1秒でも長く、わたしの聴覚が機能しますように。なにかに取り憑かれたようなクロトの高笑いは、刻々と死に向かうわたしに安寧をもたらしてくれる。
「そう、そのまま通信回線を開いておいて。わたしを見て。わたしを殺した感触を忘れないで」
破壊行為を楽しむクロトの声を聞きながら息をひきとる数秒間は、きっとにぎやかで寂しくないはずだから。
2023.02.25
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