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木手永四郎と夜の庭で踊りたい


 跳ねる。秋の香り僅かに纏った空を切り裂き、つめたくなった土を巻き上げ、海外ドラマに出てくるプロムのごとく踊るように跳ねる。昨日買ったばかりの島草履はみるみるうちに土まみれになってゆく。ぐるぐると回転しながら空を見上げると、藍色の下地に月白の飛沫を散りばめたような星々が、この身に降り注ぎそうなほど迫っていた。足がもつれてバランスを崩すと、星もゆらりゆらりと揺れ動く。私の身体は重い音を立てて地面に転がった。
 ああ、肌寒い。日本の最南端に位置する沖縄といえど、午前二時の大地は悲しいほどに冷ややかだった。視界がぐるぐると引っ切りなしに回る。起き抜けに飲んだワインのせいなのか、私自身が回転しすぎたせいなのか、今の自分には何もわからない。考えるのも面倒臭くて、ベッドで寝返りを打つように体を横に向ける。旬を過ぎて黄色く熟れたゴーヤの実が月明かりに照らされていた。完熟したゴーヤは苦い食べ物が得意ではない私でも食べられるくらい甘い、らしい。温度を失った土を握りしめ、ゴーヤの実をぼんやり見つめていると、裏口の方から規則正しい足音がした。
「全く、寝相が悪過ぎるでしょう」
 裏口から顔を覗かせたのは恋人の永四郎だった。下ろした前髪の下で眉をわずかにしかめている。
「永四郎」
 地面に横たわったまま彼の名前を呼ぶ。呼びかけに応えるように永四郎はこちら側へゆっくりと近づき、その大きな手で私の肩と頭を持ち上げた。
 そのまま抱き抱えられ、汚れた服を着替えさせられたのちに、寝室に戻されるのではないかと思った。けれども、私の頭は仰向けの状態で永四郎の膝の上に乗っている。思わず「あれ」と拍子抜けた声が漏れた。
「踊るときはちゃんと俺も誘いなさいよ」
 視界の回転が止む。黙って頷くと、永四郎は私の頭を愛おしげに撫でたあと、熱を持ったその手で額に垂れた前髪を払ってくれた。肌寒い暗がりの中で、眼鏡の奥に潜む目が猛暑の日の夕暮れのような温度を保ったまま私を覗き込む。この熱を胸に抱いたまま足が棒になるまで夜の庭で踊って、そして泥のように眠りたい。私の隣には、永四郎、あなたがいてほしい。

2022.05.03

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