丑三つ時。
嗚呼、またこの夢か。
個性によって誰かに干渉することはよくあることだ。強い想いは視えてしまう。
最近視るのは遺族の想い。寮にいて物理的な距離があるはずなのに、インターンで視た遺留品と遺族の想いが残留している。
今日で4日目。眠りについたらまた、あの想いに入り込んでしまう…そう考えたらなかなか眠りにつけない。
これ以上は心労が顕著に現れるだろう。
寝たいのに、怖くて、悲しくて眠れない。
これは……うん、潰れる前にどうにかしよう。
迷惑かもしれない。でもこの時間に頼れる人は私には彼しかいないし、彼じゃなきゃ。
prrrr…prrrr…prrrr…
やっぱり、この時間は寝ているか。彼の声が聞けたら少しはこの悲しい気持ちもなくなるのかと思ったけど…スマホからは虚しく呼び出し音がなり続く。
『ンだよ、こんな時間に』
「ッ……出た…」
『呼び起こしといて何ほざいてやがる』
「うん…ごめんね、ちょっと声が聞きたいなーなんて…思って…」
眠たげで不機嫌そうな声色。勝くんだ。
『……何があった』
「いや、なんでも」
『…シオン』
「ホントに…」
『シオンいいから言え。何もねェくせしてお前がこんな常識外れな時間に電話してくるわけねェだろ』
乱暴な言い方だけどそれは私をわかっているから。こうでもしないと吐かないって知ってるから。
「悲しい、夢を視るの……それで眠れなくて、声が聞きたくなった」
『待っとけ』
「え?」
ブチッと切られた電話。今待っとけって言った?まさかじゃないけど、こっちに来るつもりなのだろうか。
コンコンコン
「…え?本当に?」
「何がだよ。部屋入れろや」
電話一本で来てくれた。眠れなくて声が聞きたいと言っただけなのに。
「勝くん…ありがとう」
「最近様子がおかしかったからな…もっとはよ言えや。何のための彼氏なんだよ」
「ふふ、そうだね」
見た目は怖いし、他人に関心がなく扱いも存外な彼だけど、私に対しては優しくて些細な変化も見逃さない。
こうして部屋に赴いて私を心配してくれるとは…彼も丸くなった。荒波の揉まれて転がって角が少しずつとれていって…頼れるヒーローだ。
「私も弱くなったもんだ」
「俺の前限定でな。おら寝ンぞ」
「否定できないのが悔しいなぁ。ねぇ、今日は腕枕してくれる?」
「今日だけだぞ、今日だけ」
「ふふ、うん。今日だけね」
今日だけとか言いながら、私が眠ったあとに気まぐれでしてくれるの知ってるんだから。
乗せられた腕から聞こえる心音が好きだ。それに距離がいつもより近くなるから、寝息が正面で聞こえてくるのも好き。
寮のベッドは一人用だけどこれだけくっつけば簡単に落ちることはない。
さっきまで寝るのが怖かったのに…悪夢を視てしまう…そう思っていたのに彼がいるだけで気分が晴れていくのがわかる。
「礼は土日のセックスでいいわ」
「なんと。お高い報酬だね」
「あ”?毎日でもいいんだぞ?」
冗談に聞こえない夜のお誘い。彼だったら本当に毎日部屋に訪れて組み敷きそう。
そんな冗談(?)で私の緊張を解そうとしてくれたのか、だんだんと脱力してまぶたが重くなっていくのを感じる。
「とにかく今は抱き締めて一緒に寝て欲しいわ」
「しゃーなし…、仰せのままに?お姫様」
スクエアとバカにしてくることは未だに続いているけれど、彼はたまにこうして「お姫様」とか「お嬢様」とか「彼女さん」とか言って楽しんでいるときがある。
腕枕していない方の手が頬を撫でる。指先が遊んでいるのから愛しさが伝達する。で、今日はお姫様か…
なら彼はお姫様の守護騎士と言ったところか。
彼みたいな護衛がついてくれるんだったら悪夢だって、暗殺者だって寄せ付けないんだろうな。
トクン…トクン…
抱き締められて、脚を絡めて体温を全身で感じる。私に対して色々と甘い彼からは、ニトロの甘い香りがする。
二人きりで過ごす場合は私の部屋っていうのが定番になってきたため、この部屋も自然に彼の香りが染み付きつつある。
そしたら、彼がいなくても悪夢を視ることはなくなるのかな?そうだとしても、私はやっぱり彼が恋しくなると思う。
いつの間にか可愛らしくなってしまった私は、夢の中でも彼に護ってもらう。
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雪さんリクエスト、眠れない彼女を宥めて一緒に寝てあげる爆豪くん。
私事なんですが、ほぼ毎日夢を見ます。最近は上鳴電気氏とデートする夢見ました。あの子のマジで残念なイケメン具合に、寝起きにキレながら夢の内容をメモしました。
あと、乾電池を飲み込む夢を見て心なしか喉が痛いです。
余談でしたね。執筆がかなり遅くなってしまいましたが、リクエストいただきありがとうございました。
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