novel
教習所(自動車学校)話。年の差みね!
運転する姿がカッコいいなぁなんて。
ついつい見惚れてしまう自分が、なんだか悔しくて。
…それが理由ってのは、さすがに内緒だけれども。
Exclusive driver!!
さんさんと照りつけてくるおっきなお天道様。
堂々と葉を茂らせ、上へ上へと成長していく道端の向日葵。
とけかけのアイス、子どもたちの明るい声。
そして煩く求愛を続ける蝉の合唱。
「…あぁ、夏だわ。」
そう、夏だ。
残暑と呼ばれる時期ではあるけれど、それでもまだまだ熱気は充分。
とてもとても、暑い夏。
そして学生たちにとっての天国ともいうべき季節。
夏と言えば、やはり…そう。夏休み、である。
旅だ海だ山だキャンプだ。
楽しげな笑顔と共に大学の構内で配られる旅行のパンフレット。
本屋にいけば、どうだといわんばかりに宣伝されまくっている旅行雑誌。
さて、リン…鏡音リンも大学生。
しかも二年生ともなれば、就活を気にせずにのびのび休みを満喫できる幸せな学年である。
大学生の夏休み、それはなんだか楽しそうな響きに満ちていて。
人から聞くと、友達同士で旅行だとか。
一人で自転車でどこどこまで旅してみただとか。
はたまた、ひたすらごろごろと堕落しきった生活だとか。
…もしくは、彼氏と一緒にテーマパーク等へ遊びに行ったんだとか。
先輩や知り合いから聞くのは、なんとも楽しそうで。
わくわくして休みをまっていたりしたんだけども。
実際は。
「…休みって、なんだっけね。うふふ。」
実際は、そんな楽しーウキウキワクワク☆なことなんてある訳もなく。
どんな人でもリア充になれるだなんて、そんなわけなく!!
そうなんです、そう簡単にはいかなくて。
「ふふ、ふ…」
「鏡音さんどうかしましたか?」
「あっすみません」
バイトと教習所をひたすら繰り返してるだけの毎日、だったりする。
…まぁ、そーなるとは解かってたけども。
け!ど!も!
予想以上にバイトをつめつめになってたり、全然休む時間が無かったり。
それくらいは、まだ!許容範囲と言えるんだけど。
一番の、問題は。
「うぅ…どうして私こんな下手なの…」
「じゃー次左折ね」
「ハイッ」
「あぁウィンカーもっと早めにね」
「ハイッ」
「あー目視した?きちんとね」
「ハイ…」
「うーん大回りすぎるかな。もう少し内側に」
「ハイィ…」
私の、運転技術の駄目駄目具合だったのです。
「場内なのにこんなダメだし食らうとか…ほんと私下手すぎる…」
「まぁまぁ、ハイ、じゃー受付のとこで申し込みしといてね。仕方は…」
「あっわかります」
「え?」
「…2度目、なんで。大丈夫です」
「…じゃあ、がんばってね」
「はい…」
だって、誰が思うでしょうか!
路上に行くまでの技能の試験(修了検定)で2度もおちるという人間がいることに!!!
なんだかもう、悔し涙で前が見えません!
ちなみに、今終わったのは2度目の修了検定不合格後の補習、だったりする。
あぁ、お金が…。
3度目の修了検定の受付を済ませ、ぐったりしながら教習所を出る。
クーラーの効いている室内と違って、襲ってくるような湿度のある熱気。
あぁ、夏だわ。
夏、なのになぁ…。
・・・・・・・
その後自転車を走らせ直でバイトへ。
うん、自転車の操作だったらまだ慣れてるのになぁ。
ってことは自動車に慣れるまではあと何年!?
試験、絶対受かんないじゃん!!!
なーんて馬鹿なことを考えつつバイト先へ向かう。
休憩室には、色とりどりのお土産の箱。
バイト仲間に話を聞くと、皆修了検定は一発合格ばかりで。
あー!どうして私はこんなに下手なの…?!
ぐちぐち考えつつバイトを終え、また自転車を走らせる。
と、思ったのだけれど。
視界の端には、よく見知った空色の車。
だいすきなひとの乗っている、くるま。
不用心だけれど、ナンバーの確認もなしにその車の傍へ向かう。
途中から小走りになっているのは、気にしないで。
すると、やっぱり車の中には。
「ただいま…」
「あっきた。リンおかえり」
「…ううう。れーんー!!!!」
「うわっ」
開けてくれた窓から腕をいれこんでレンの首に抱き着く。
体制がきつくなることは100も承知。
でも、なんだか抱き着きたくなってしまったんだもん。
ちょっとばかし、泣きそうになってしまったんだもん。
「…リン、危ないよ」
「しらないもん」
「身体痛いだろ。疲れてんのに…無理すんな」
「うううう」
「ほら、席座って。かえるぞ」
「うー」
そこまで優しい言葉をかけられちゃどうしようもない。
しぶしぶレンの首から腕を離し、助手席に向かう。
あーあ。もうすこし抱き着いてたかったな。…なんて。
シートベルトを締めると同時に車が発車する。
「明日」
「ん?」
「明日、バイト?」
「うん。…あっ自転車!」
そうだ!私自転車でここまで来たんだった!
今更気づいて振り向けば、バイト先のお店と共にちいさくなっていく私の自転車。
あーすっかり忘れてた…。
明日は歩きかな…。
落ち込みながらしょぼしょぼと前をむく。
と、赤信号で止まるなりこちらを見遣るレンの顔。
ん?
「いやだから。明日」
「はい?」
「俺仕事やすみだから、送ってく」
「!」
「うん」
…ちょっと今日は嬉しいことが多すぎる。
おかしいな、あんなに疲れてたはずなんだけど。
なんだかしあわせすぎてわらい出してしまいそう。
「ありがと」
「いーえ。迎えに行ったのも俺だしな」
「でも、嬉しいもん。ありがと!」
「…おう」
と、そんなことを言っているうちに家の前につく。
うむむ、やっぱり車は速いなぁ。
「リン、鍵持ってる?」
「持ってるー。じゃ先でて開けとくね」
「一番に窓開けろよ」
「もち!」
家の前で下してもらい、ドアの前まで進む。
ぽけっとに入れっぱなしだった鍵を取りだし、そっとさしこむ。
此処は住宅街のなかの何の変哲もない一軒家。
レンの独り暮らししているおうちであり、私もほとんど一緒に住んでいる家、だ。
・・・・・・
ちいさな頃、私にとってレンはヒーローだった。
悪者を退治してくれる爽やかな男の子、とは当時から言えなかった気がするけど。
それでも、私にとってレンは私が泣きたくなると何故だかいつもそばに来てくれたんだ。
両親の仕事が忙しくて、いつも家の中で独りぼっちだったちいさな頃。
そんなとき引っ越してきた、隣の御家の八歳上のお兄さん。
それが、レンだった。
無愛想だし、あんまり笑ってくれないし。
第一印象はもうほとんど覚えてないけど。いいイメージでは無かった気がする。
さて親同士で何があったかはわからない。
けど、レンの両親も仕事が忙しかったらしく、じゃあ…ってことでレンが子守をすることが決定したのだ。
でも当時私は小学一年生。レンは中学二年生。
よくまぁ引き受けてくれたなと思う。
理由を聞いても応えてくれないのは謎だけれど。
そんな訳で、私は学校が終わったらレンの家に帰るのが日常になった。
レンは無愛想な割には優しくて。
勉強してれば解かんないとこ教えてくれるし。
ご飯だって作ってくれるし。
寂しくてしょうがないときは、一緒に寝てくれたし。
もしレンがいてくれなかったら、私は荒んだ子になってたんじゃなかろうか。
そんなことが言えちゃうくらい、私の中でレンの比率は大きい。
夢はレンくんのお嫁さん!とか恥ずかしげもなく言ってたくらいだったりで。
…いや、ほんと今考えると恥ずかしすぎる。是非レンの脳内から抹消していただきたい記憶よね。
そんなわけで、私はちっちゃなころからレンがだいだいだいっすきだったのでありまして。
レンが大学生くらいの時、アッサリレンの両親が海外でお仕事するようになって。
でもなぜかレンだけ残ったときから今まで、ほっとんどレンのおうちに入り浸るようになるのでありました、まる
「今日ご飯なに?」
「夏野菜カレーでっす!おばあちゃんちから野菜送られてきたから」
「いいね」
さて車からおりてきたレンと夕飯の準備。
と言っても今は既に日付を超えた時刻。遅めの、というよりは遅すぎる夕飯である。
そこまで考えて、はっと私は我に返った。
今日のバイトはラストまで。つまりはレンより帰りが遅くなるのは解かっていたわけで。
だからこそ、あっためるだけのお手軽カレーさまにしたわけで。
…あれ?
おそるおそる、隣でご飯をよそっているレンの方へ体を向ける。
隣には普段と変わりない無表情なレンの顔。
「…ねぇ、レン」
「ん」
「今日レンの帰り何時くらいだった?」
「…さぁ」
「私の帰りより早かった、よね」
「…」
「レン、もしかしなくても待っててくれた?」
「…」
じぃぃっとみつめれば、微妙に動くレンの表情筋。
うん、やっぱり。これはかなりの時間待っててくれたみたいだ。
…優しすぎるよ、もう。
「だってさ」
「うん」
「…一人で食べるご飯は、リンきらいだろ」
「…う」
「それに俺だっていやだし」
ほんとうに、ほんとうにちいさな頃。
誰もいないリビングで、ぽつんとひとりでご飯を食べてた。
お母さんが忙しい中作り置きしてくれていたご飯だったり、レンがつくってくれたごはんだったり。
それは普段ならとてもとてもおいしいはずなのに。
「…うん。ありがとう、レン」
「ん」
「でもお腹すくのは無理しないでね?」
「それはほら、空腹は最高のスパイスだから」
「いや多すぎもだめでしょ」
呆れてツッコみながらカレーをよそっていく。
ちょっと嬉しくて頬がゆるんでしまうのは、そこはまぁみないふり、で。
我が家のよそい方はハーフ&ハーフ。
凝ったスパイスは使えないし、ルーだって市販のやつだけど。
…愛情だけは、込めてあるから。
「「いただきます」」
「ん、おいし」
「うん!」
夏休みなんてどこへもいけてないし、バイト三昧だし。
なにより教習所が忙しすぎて、ほんとうにもう…もう、なんだけど。
レンが迎えに来てくれたり、一緒にご飯食べてくれたり。
もうそれだけで、私の顔はゆるみっぱなしになってしまうのです。
あぁもうなんて単純な脳。それでもいいんだ、しあわせだもん。
「そーいえば、リン教習所大丈夫なの?」
「う゛?!」
「…駄目なんだな」
ご飯を食べて、カレーはしみになりやすいからすぐお皿を洗って。
順番にシャワーを浴びて、というか先に入らせて頂いて。
髪の毛をぬれっぱなしにして仮免許(筆記試験)の勉強をしていると。
ふわり、と頭にふってくるタオルと共にレンの呆れた声も降ってきた。
「そ!そんなことないよ!もう三回目だし!」
「そう、三回目な」
「うううう」
今のところ技能試験に落ちまくっている私は、未だに筆記試験へとたどり着けていない。
(仮免許を貰う為には、まず終了検定という技能試験を合格してからでないと筆記試験の受験資格がもらえません…)
一応教習所での筆記試験予想問題みたいなものは受けているけど、それも結構前。
…だって、こんなに技能試験で手こずるなんて思ってもみなかったんだもの!
頭に落としてもらったタオルを掴み、ガシガシと雑に濡れっぱなしの頭をふく。
するとそれを黙って見ていたレンがふっと口を開いた。
「そんなに免許欲しい?」
「ほしいよー!ここらへんじゃ車ないと不便だし」
「ふーん」
何を解かりきったことを聴いてくるのか。
私の住んでいるとこはすごく田舎ってほどでもないけれど、絶対都会ではない。
駅までも遠いし、ショッピングセンターとかも遠い。
基本いままでの私の足は駅まで自転車、そこから…といった感じ。
それもひたすら代わり映えのない道を30分、だ。
雨の日とか強風の日とかは本当にやっていられない。
それはレンだって知ってるから車の免許をとったんだろうに。
「俺が運転するのに」
「っへ?」
「リンが車なくても、俺はあるじゃん」
「?!」
「俺の運転は、いや?」
突然の言葉に動きが止まる。
レンがデレた。
いやいつも少しずつデレを…ってちがくて!
そうじゃない、全くそうじゃない!でもそれじゃあ駄目なんだ。
あまりに動揺しすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
だから、言わなくていいことを口走ってしまったんだ。
「だっだって!これ以上もっと!私がレンに惚れちゃうじゃんっ!」
「…はぁ?」
「…あれ?あれ?…ッ!!!!」
しまった!と慌ててタオルでくちを塞ぐが時すでに遅し。
ぱちくりと目を瞬くレンの様子で、自分が言ってしまったことを聴いていたのは明白で。
いや、当たり前だけど。
これは、絶対に言う気はなかったのに…!
普段からあまりお金を使わないし、家でゆっくりしているのが一番のしあわせ。
そんなモノグサの私が一念発起して高いお金を払って教習所に行き始めたのは。
友達の言う自分の証明書替わりでもなければ、さっき言った不便だからってのが理由じゃない。
いや、不便なのは事実なんだけど、でもそれは一番の理由ではなくて。
運転するレンの横顔が、いつも以上にかっこよく見えて。
そんなレンにいつもいつも、馬鹿みたいにドキドキしてしまう自分がいて。
レンの場所にいけたら、レンだってすこしは私のこと見直してくれるかなとか。
そんなくだらないこと考えてしまうくらい、かっこよかったんだ、本当に。
「それに、私だって」
「?」
なんだか捨て鉢な気分になり、ついつい余計なことを添えてしまう。
レンの顔はみないように顔をそむける。
いや、ただ自分の顔が赤いのをかくしたいだけなんだけれど。
そむけたうえに俯いて、ちいさなちいさなこえで呟く。
「私だって、レンを迎えに行ったりとか、してみたかったんだもん…」
「…さいですか」
あきれた様な、拍子抜けしたようなレンの声。
ばかだって思ってるのかなぁ。うん、確かに馬鹿だなと思う。
教習所代は安くない。私だって行こうと決心をつけるにはやっぱり悩んだ。
でもやっぱり、かっこよかったんだ。
だから、すこしくやしくて。
でもまさかこんな自分が下手だとは思わなかったんだけど…ううう。
「リン」
「…」
「りーん、ほらこっちむいて」
「…なによぅ」
恥ずかしすぎて振り向く気なんてなかったんだけど。
きこえてくる声がいやに優しくて、しぶしぶ振り返ってしまう。
と、いきなり。
「わぶっ」
「リンってほんと変わってないなぁ…」
「なっなっなっ」
おもいっきり腕をひかれ、レンのうでの抱きしめられる。
私はなんか膝立ちでレンに寄りかかっちゃってるし、うっ体重が!
てか変わってないとはなんだ、私はもう20歳なのに!
文句を言おうと口を開いたのに、ぎゅっと抱きしめる腕に力を籠められて私は何も言えなくなってしまった。
「大丈夫、どれだけリンが惚れようと俺の方が惚れてるから」
「えっなっそっそんなわけないもん!」
「そんなわけある」
「!!!」
なんなんだ今日のレンは。疲れているの?!
あまりにも嬉しくてでもドキドキしすぎて、頭が回らなくなる。
ふっと腕の力が緩んだので顔を上げて、レンの顔を見てみれば。
「…レン、まっか」
「うるさい、リンもだろ」
「「…ぷっ」」
見つめあって、ふきだして。そうして二人で笑い合って。
ドキドキして、嬉しくってふわふわして、でもちょっぴりくやしくて。
あぁやっぱり。私はすっごくレンがだいすきだって思い知る。
そんな風にレンも思ってくれているのだろうか。
だったらいいな、なんて。ちょっぴり願ってみたりして。
笑いがひと段落したところで、こつんと額をあわせて目と目を合わす。
「でも私絶対免許取るからね」
「だろうね」
「それでレンのこと迎えに行くからね」
「楽しみにしてる」
くすくすわらいあって目と目を閉じて。
そうして触れ合ったぬくもりは、やっぱりうれしくてふわふわしてしまいました。
君は私の専属ドライバー!
(私だって、君の専属ドライバーに!なるからね!)
「でも、リンの運転する車事故りそうだな」
「なっ!?そ、そんなこと!…ない、ようにがんばる、し」
「まぁリンと死ねるなら別にいいけど」
「…えっ?!」
おわり
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夏だったのになーあんときは夏だったのになー(遠い目
りあじゅうでも鏡音充なら私はもうしあわせっす。
そしてこれ真夜中なのにどうやっても夜な雰囲気にならない私はああなんて力不足グヘッ^q^
普段はきっちりしっかりしているのに、レン君の前だと甘えたになるりんちゃん。だいすきです。
そして私は免許がほしいです切実に。
2012/11/21