novel

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扉をあけたら君がいた。
多分それが僕の運命の分かれ道。





ハローハロー






「ふぃ〜つっかれたぁー」


ぐっと空に向けて腕を伸ばし、体をほぐす。
もうすぐ新学期。というわけで、一応補佐の僕も有り難くもないお話を聞かされていたのだ。
話を聞くのはしょうがないが、座りっぱなしはやっぱり辛い。


「ねたい!でも着替えなきゃ…あぁもうめんどくさいなぁ…」


ぶつぶつ呟きつつ自分の部屋の前へ立ち止まる。
寮と言えど、カギはちゃんとついている。まぁ下手な争いの種はまかないのが賢明だ。
それに、誰しも覗かれたくな秘密ってのはもってるものだし。
いつもどおり、勿論僕もしめたはず…あれ?

ガチャリ

そうそう簡単にまわせない筈のドアノブが緩くまわる。
おかしい。鍵をしめたならば、こんなことはおこりようがないのだ。
それはつまり…鍵がもともとあいていたということ。
え?


「今日閉め忘れたっけなぁ…」

しかし突っ立っていてもはじまらない。
疑問を感じつつ、手を置いたままだったドアノブをひねり力をいれる。
ドアを開いたそこには、いつもどおりの僕の部屋…ではなく。


「あ、おかえり」
「あぁうんただいま。…ま?」


みたこともない金髪の少年がそこにはいた。
いままで空だったベッドに腰掛け、傍にある段ボールを弄っていただろう恰好のままこちらを向いている。
それに対し、僕はドアノブに手をかけたまま立ち尽くす。
ばっちりと目があい、両者、動かず沈黙が落ちた。
沈黙を破ったのは、ベッドにいた彼の方。


「…大丈夫?」
「え?あぁうん大丈夫!とっても丈夫!!」
「?そう、とりあえずドア閉めれば?」
「あっはははそうだね!忘れてた!ははは!」


促され、ぎこちない仕草でドアを閉じる。
そして落ち着こうと深呼吸し部屋を見渡せば、そこには僕が出てく前にはなかったはずのものばかり。
目の前には、ベッドに腰掛ける同い年くらいの少年。

随分見目麗しい人だなぁってちょっとまった。
あれ、もしかして…もしかするの?


「ええと、君は…」
「貴方が笹瀬リンさん、かな」
「ハイ?ええそうですけど…君は?」
「俺?俺は」


さっきまで座ったままだった少年はすくっと立ち上がり、こちらにむかってくる。
そしてそっと手を僕に差し伸べ、少し目元を緩ませた。


「鏡音レン、これから君と同室になる。多分クラスも同じだな」
「お、おお。それはそれは…。え?」
「ん?」


え?
彼、いや鏡音君は今、なんとおっしゃった?
…え?
無意識に目の前に差し出された手を握りながら、僕はやっと状況をのみこみ、



「えぇぇえええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!」
「?!」


叫び声をあげた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・



だっだっだっだっだっだっだ、ダン!


「あれ、ノックもなしに」
「にいさまぁああああああああああ!!!!」


ばたーんという思い切りの良い音と共にドアを開ける。
すると、そこには机の前で行儀よく本を読むクオ兄様の姿があった。
いつもと変わらない光景に、なんだかほっとして涙が出てきそうになる。


「…リン、うるさい」
「そっそれどころじゃないんだよっ!助けてクオ兄様ぁ」
「なに、どうしたの。…とりあえず、ほらおいで。」
「うぅう」


きちんとドアを閉め、兄様の傍の床に直で腰を下ろす。
兄様が本を閉じているのを眺め、終わってこちらを振り向くのを待って僕は大きく息を吸い込んだ。


「どうしよう!兄様!!」
「だから、どうしたの?」
「あの、あのね!!!僕の部屋に!」
「ルームメイトができた、だろう?」
「…えっ?」


突然降ってきた声に首を巡らせば、そこには


「…カイト」
「カイ兄様ぁっ?!あれっ知ってるの!!」
「まぁ、寮長だからねー」


飄々と受け答えをするカイ兄様をまじまじと見つめる。
どうしてそんな気楽に構えてられるんだろうこの人は!
自分のことではないけれど、一応心配とかしてくれたっていいんじゃないかなぁ!!!


「なっなんで教えてくれなかったの?!」
「急だったんだよ色々と。それに、知ってたら止めるって」
「えっ」
「…こらリン。意外そうな顔をするんじゃない」
「だって、カイ兄様だし心配なんてしてくれないのかなって」
「こら」


苦笑気味に頭をつつかれ、大げさに身をすくめる。
そこで面白そうに笑ってるクオ兄様と顔を見合わせてにっこりしてから、大事なことを思い出した。


「そう、そうなんだよ!ルームメイトが!できちゃったの!」
「そうだね」
「うん、さっき聞いたって」
「だだだって僕だよ?僕なんだよ?!!」
「あぁ…」
「まぁね」


そう、僕なのだ。
ルームメイトがどうだとか、鏡音君がどうだとか言う気はない。
問題は、僕のことなんだ。


「だって、僕は…っ」
「リンストップ」
「ふぇっ」
「御当人が」
「えええええ?!」


がばっと振り返れば、ドアの外側つまりは廊下で困ったように立ちすくむ鏡音君が。
え、え、え?なんでそんなところに?!
てゆうか!いつからいたんだぁ!!!

あわあわと視線を動かし兄様たちと鏡音君をみる。
すると、割と驚いていない兄様ふたり…って、もしかして!


「気づいてたの二人とも?!」
「いや、というか」
「僕が連れてきたんだし。此処に。」
「ええっカイ兄様が?!いたのそのとき?!」
「うん」
「うそだー!!!!」


あまりの自分のマヌケさに頭を抱えたくなる。
つい兄様の言葉に反応してドアまでみてる余裕がなかった…。
話、聞かれてるんじゃ!いやでもまだ危ないとこは聞かれてない?
てゆーか。


「このままじゃ僕すっごく誤解うけない?」
「「?」」


だって、さっきからルームメイトだとか助けてだとか言いっぱなしだ。
そしてそれを全て聞かれていた、とすると…。
同室の人、つまり鏡音君がすっごく嫌って言ってるみたいじゃん!


「…ええと」


声が聞こえ、その方向をみればそこには鏡音君。
表情は非常に言い辛そうで、そしてこの場に居ずらそう。

あぁだよね!そうですよね!この雰囲気でい易そうにする人間なんていないよね!ははは!
ヤケッパチになって笑い出してしまいそう。
って、まずは誤解を解くのが先だ!


「あの、笹瀬。やっぱり」
「ちがう!」
「え…」
「違う!君は断っじて悪くない!そう君が問題じゃないんだ!」
「あ、そ…そう」
「そう!」


その言葉に思いっきり頷いて、鏡音君を必死な思いも込めてみつめる。
すると鏡音君は困ったように後ずさった。
…もう十分遠い場所にいると思うんだけど、僕なんか可笑しなことしてるのかな?

鏡音君の行動がよくわからず、困ってしまう。
と、後ろからクスクスと大変楽しげな笑い声が。
…こんなときに!


「なにさっ兄様方!」
「いや、だって…なあ?くっ!」
「リンってばそんな力込めなくても…ほら、困ってるよ。」
「えええ、なに、僕のせいだったの!?ごごごめん鏡音君!」
「あ、…はい?」
「くっちょ、むり!」
「面白すぎる…っ」
「に!い!さ!ま――――っ!!!」


困ったような鏡音君がみえるが、この際もう仕方がない!
あーっもう!僕の馬鹿!兄様の、ばかー!!!


良く解らなそうにしている鏡音君を一度見つけてからばっと立ち上がる。
そして


「えっ笹瀬っ?」
「あ」
「おー逃避行!」
「…うるさい!」


ドアに向かい歩みだし、途中で鏡音君の腕をひっつかみよく考えずに走り出した。



・・・・・





「どうすんの?」
「まぁ、しょうがないよねー。あの鏡音家様のご子息だから」
「でもさ…」
「僕だって嫌だけど。すっごく不快なんだけどね」
「…」


「リンにとって」
「?」
「リンにとって、過ごしやすい場所であればいいんだ。笑ってくれさえすれば。」
「…そうだね」


ほんとうに、そう思うよ。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




走り出して数分後、場所は僕らの部屋。
…ぼくらの、部屋かぁ。
その単語がなんだか不思議でつい考えに沈み込みそうになる。
でも、知りたそうな視線。もちろんそれは鏡音君。


「さっきのひとは…寮長?」
「そ、背が高い方が寮長さんで始音カイト。低い方が副寮長さんで初音ミクオ。どっちも五年生…ええと、高校二年生、だよ」


さっき聞いてみたところ、僕が叫んで飛び出した後の部屋にカイ兄様が来たらしい。
そこで固まっていた鏡音君をみつけ、事情を察して一緒に連れてきたのだろう。
…事情を察して、ねえ。


「兄?」
「んー?」
「いや、さっきの二人…にいさまって」
「あぁ」


あそこまで鏡音君そっちのけで話してるのを見られてるんだ。まあ気づくよね。
隠すことでもないし、皆知ってることだ。
まあ鏡音君はきたばかり、むしろ僕に聴いてくれたことを幸運に思うべきだろう。


「カイ兄様…えっと寮長のほうね、彼は従兄。」
「てことは副寮長の方も」
「クオ兄様?彼はほんとのおにいさま」
「…それじゃ」
「あぁ。そうそう。半分だけなんだ」
「え」
「腹違いなわけ。だから名字は違うんだ。」
「…」


おっと、微妙な沈黙。
困ったなぁ。そんな珍しいことでもないと思うんだけども。
お金持ちってのの思考はいまいちわかんないのだけれど、ここにはいろんな事情をもったひとは山ほどいる。


「まっそんなわけで彼らがこの寮で偉い人。怖いから逆らうのはおすすめしないな」
「君は?」
「僕は寮長補佐。寮長たちは後半生…外で言う高校から、補佐は中学から選ばれるんだ」


ここは名門私立の男子校。学力レベルは勿論、家柄も合否に当然のようにかかわるそんな学校だ。
中高一貫…というか中高の区切りなく、ひっくるめて中等部と呼ばれてる。
だからこそ、兄様方とも近くに入れるのだけれども。
まぁつまりはこの学校に入るための試験は、小学校のはじめ、中学校のはじめでしか実施されない。
狭き門だ。
転入生は、非常に珍しい。


「でも変な時に転入してきたねー。二年生の秋学期から、か。」
「…あぁ。いろいろと」
「そ?まっ変な時期だ」


色々と。
この学校は、そんな人ばかりが集まるように見える。
難しい事情、複雑な関係。家の立場をそのまま表したかのような勢力図。
まるでミニチュアの劇場のようだ。
…人のことなど、言えないのだけれど。



「黄昏館へようこそ、レン」
「たそがれ…」
「あ、聞いてない?この寮の名前だよ。この学園には寮が四つあるんだ。」
「多いな」
「人数も多いからね。で、この寮ってのが学年より関係が強い。体育祭とかは寮対抗だよ」
「へぇ、珍しい」
「そなの?他は知らないからなぁ。でもおもしろいよ」
「そか」



椅子に腰かけていた体を持ち上げて、窓の外をのぞく。
夏の夜、といってももうすぐ秋か。まだまだ明るいけど、あっというまに暮れるのが早くなるのだろう。
昼でも夜でもない、あやふやな時間。
まるで僕みたいだ。


「それで、笹瀬はこの部屋を一人で使ってたのは理由があるの?」
「へ?」
「何度も叫んでたから…」
「…」


まあ、あそこまで叫んでれば気にもなるよね。
しかしこの人はバッサリ聞くなぁ。
でも、こーゆーふーに聴いてきてくれるのは嫌いじゃない。むしろ、すきだ。
窓の外を向いたまま、ついほほ笑みを浮かべてしまう。
もちろん教えてあげる気はないけれど。


「さっき、寮長補佐だって言ったの覚えてる?」
「あぁ、中学から選ばれるっていう…」
「そ、それ。それって寮でそこそこの責任を負うんだけど。それって二人選ばれるんだ」
「はぁ」
「でもね、選ばれないこともある。今までは僕一人だった」
「一人…てことは」
「うん。この部屋は寮長補佐が代々使う部屋なんだ。ここ結構いい部屋なんだよ?」
「だから今まで一人で使ってたんだ」
「いえーす。今までずっと一人だったからさ、なんか吃驚して」


そう、吃驚した。
この部屋を使うのは寮長補佐。それは真実だ。
場所も悪くないし、他の部屋よりも大きい。…この学校の寮はどの部屋も広いけれども。
一人しかいなかったのは、多分兄様方の配慮。
それが許されるくらい、兄様方の家の力は大きいってことだ。
だから多分…鏡音君の家も相当なのだろう。
僕には関係ないけどね。


「だからさ、よろしくね!寮長補佐君!」
「…え?」
「この部屋に来たってことは、そう言うことだと思うよ。」
「…」


くるりと体の向きを変え、鏡音君を視界に入れる。
吃驚してるかなと思ったが、どうやらそうでもない。彼を覆うのは無表情。
そういえば、この人はあまり表情を変えない気がする。
随分と綺麗な顔をしているのに…。勿論無表情でも十二分に美しさは発揮されてるのだが。

そんなことをつらつらと考えていたからか、注意力を失っていたらしい。
ハッと気づけば、目の前には鏡音君。
えっいつのまに。


「つまり、君の相方ってことか」
「あぁうん。同室だし…そんなもんじゃないかな」
「そうか…」
「うん?」
「笹瀬」
「ぅあ!はい?」
「…宜しく」


おお、わらった。想像以上に可愛らしい。
そして、わらいかけて貰うのはやっぱり嬉しい。
…なかよく、やっていけるかも。


「こちらこそ、よろしく!」




笑った方が可愛いよって言ったら、ものすごく不機嫌そうに顔を顰められた。
なんだかこどもっぽいなと思ったのは、多分言わない方が良いのだろう。







(はろーはろーはじめまして!)
(この明るく豪華な檻へようこそ!)





おわり




これは続く予感。
めもの完成版です。

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