novel
とおい、とおいむかし。つかれきったせかいの、かみさまにみすてられたふたごのおはなし。
昔々、世界中のすべてが疲れていた時代。
どこかの王国でも、やっぱり、みんなみんな疲れていました。
働けど働けど、食べ物は実ってくれず。
願えど願えど、お空はわらってくれず。
泣けど哭けど、世界は疲れたまま。
こんな世界では、王族とて例外でなく、
王さまも、お妃さまも、大臣さまも、みんなみーんなやせ細って、疲れていました。
そんなとき、あたらしい命がうまれました。
こんな世界、こんな現実。
あたらしい命が、この国を、この王国を救ってくれるのではないか、と、
皆が期待するなか、赤ん坊はうまれました。
だけども、あぁ、なんて皮肉なのでしょう。
王さまとお妃さまの間にうまれた赤ん坊。
このこは、このこたちは…、
――――ふたご、でした。
『おうこくに、おうぞくに、ふたつのいのちがどうじにうまれるとき』
『このふたつのいのちは、おうこくにふこうをはこんでくるでしょう』
『このふこうから、のがれるためは、』
――――うまれでたふたつのいのちを、このせかいからけしてしまうべきでしょう
だけども、王さまもお妃さまも、この王国内での久々の命を、自らのわが子を、けすことは躊躇われました。
それに、もう充分、王国は疲れていたのです。
願っても願っても、この世界は、なんにもかわってくれなかったのです。
ですから、かれらは、言い伝えをすこしばかり捻じ曲げました。
―――不幸から逃れる方法は、けすことでなく、とじこめることにして。
―――うまれたふたごは、お城の奥深いところにとじこめて。
そうして、ふたりをかみさまからかくして育てることにしました。
なのに、なのに、どうしてなのでしょう。
ふたごが成長していくにつれて、あることがわかってきました。
…お姫さまは、その瞳に世界を映すことがなく…
…王子さまは、その唇から言葉を紡ぐことが、なかったのです。
あぁ、なぜ、どうしてなのでしょう。
これでは、たとえ無事におおきくなれたとしても、どちらもこの国を継ぐことはできません。
ふたごがうまれるまえに皆が抱いていた、たくさんの期待もすべてついえました。
残ったのは、目の見えないお姫さまと、口のきけない王子さま。
ただ、それだけでした。
それでも、ふたごは成長していきました。
ふたりでよりそって、成長していきました。
あんまり食べ物がもらえなくても、お外に出してもらえなくても、
それでも、ちょっとずつおおきくなっていきました。
王子さまは、お姫さまに気持ちを伝えるすべを持ちません。
だけれど、ずっとずっと、片時も離れずいっしょにいました。
お姫さまは、王子さまの顔を見ることも声を聴くこともできません。
だけれど、ずっとずっと、王子さまのてをにぎっていました。
そうして、数年が過ぎ、ふたごが六歳になったとき。
突然、おひめさまがうたいはじめました。
楽譜も、歌詞も、彼女はなにももっていませんでした。
それでも、お姫さまは歌い続けました。
すると、いつのまにか、そのうたに伴奏がつきはじめました。
王子さまです。
なんと、教えたはずもないのに、王子さまはピアノを弾き始めたのです。
みんなみんなが信じられない中、
ふたごは、うたを、ピアノを、奏で続けました。
ふたごが奏で終わったとき、きいていたひとは、みんな、泣いていました。
とっても、とてもきれいだったのです。
疲れ切った世界で、疲れ切った王国で、その歌は、びっくりするほどしみわたりました。
そうして、ふたごは、認められ、愛されるようになりました。
だけど、やっぱり、世界は疲れ切っていたのです。
そして、やっぱり、かれらはふたごだったのです。
―――不幸を、届ける双子だったのです
世界は疲れ切っていました。人々も疲れ切っていました。
みんなみんな、必死に生きていました。必死に生きている、と、そう思っていました。
それなのに、なぜ、なぜなのでしょう。
―――なぜ、争いはなくならないのでしょう。
疲れ切った人たちは、その事実を誰かのせいにしたがりました。
そして、かみさまは自分たちを、自分たちだけは救ってくれると、そう信じたがりました。
自分たちの国は、自分の国は、…自分だけは。
そうして、ちいさなことを、誰のせいでもないことを理由にして、争いを始めました。
そちらの国が悪いのだと、あちらの国が悪いのだと、…自分の国は、悪くないのだ、と。
こうして広まった争いは、誰にも、抑えることはできませんでした。
争いは、人を変えてしまいます。
ふたごのうまれた王国にも争いが迫ったとき、だれかが、だれもが、こころのなかで思いました。
「やっぱり、あのふたごは、不幸を運んでくるふたごだったのだ」、と
「うまれてくるべきでは、生かすべきでは、なかったのだ」、と
ある占い師が言いました。
「口がきけなくても、王にはなれる。だがしかし、目が見えない女はなにも役立たない。」
「ふたごは、ふたりいるからそう言われるのだ。ひとりしかいなければ、ふたごではなくなる。」
「…だから、」
――――おひめさまを、いなかったことにしてしまおう、と
王さまは迷いました。お姫さまを、わが子を、愛していたのです。けれど、けれど自分は王だったのです。
お妃さまは泣きました。わが子を愛していたからです。それでも、自分は王の妃でした。
お姫さまは微笑みました。何もうつさない瞳を細めて微笑みました。役に立ったことのない自分が、片割れのお荷物でしかなかった自分が、役目を与えられたことを喜んだのです。
お姫さまは言いました、ありがとう、と。そう言いました。
そうして、王子さまは、
――――おうじさまは…
父様、母様、リンがいない世界で、どうして僕に生きていけというの?
口がきけないはずの王子さまは、喋ったことのない王子さまは。
くすりと微笑んで、そういいました。
そうして、そうして――――――――――――――――――――――――
ふたごがうまれた国は、争いに敗れて消え失せました。
国はなくなりましたが、争いは消えてなくなりません。
疲れ切った世界は、いまも、救いを探してまわります。
疲れ切った人々は、いまも、救いを探して争います。
あぁ、不幸とは、救いとは、一体何なのでしょう?
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ふたごがどうなったかは、またべつのおはなし。
ヤンデレンのつもりで書いたのですが…どうなのであろうか…orz