novel
大学生レンリン。
忙しい日
(別名、クリスマスイブ。)
本日。12/24、クリスマスイブです。
赤い服を着たえらく目立つ不法侵入者が笑って見過ごされ、
あちらこちらで爆発しろという恐ろしすぎる呪文が唱えられる、なんとも奇天烈な日。
…ってのは冗談で。
家族連れがあったかい笑顔でこどもを抱きしめてたり、恋人たちがとろけるような笑みを浮かべてたり、友達同士でバカ騒ぎしてたり。
…わりかし本気で呪いの呪文を唱えてるような人も、いるかもだけど。
それでも、いつもとは違う、なんだかわくわくするような空気が流れる、そんな日。
さて、わたくし鏡音リン。こんなうかれた空気の中、
「こちらラッピングの種類が三つございますがどれが宜しいでしょうか?」
「あちらですか?少々お待ちくださいませ!!」
「鏡音さん!!レジ!!あっちもあけていいから!!」
「っはーい!!二番目でお待ちのお客様!こちらのレジでお願いします!!」
…バイト中、だったりします(泣
今年のクリスマスイブやクリスマス当日は、有りがたいことに土曜日・日曜日で。
心配していた講義の補講も入らず。
去年は大学受験で必死で、それどころじゃなかった分、
レンとふたりで、その…こっ恋人っぽく、す、過ごせるかな、なんて恥ずかしくも思ってたのだけれど。
…かなり、き、期待していたのだけれどっ。
「鏡音さん!!ごめん!この日シフト入れないかなっ?!!」
「えっ、いや、その…24日、ですか?」
「いやもうほんと申し訳ないんだけど!バイトの子ほっとんど居なくって!!皆駄目ですの一点張りでさぁ…頼む!!もう鏡音さんくらいしか残ってないんだよっ」
「…だれも、いないのでしたら…、わかり、ました。」
「!!有難う!助かるよー!!!ついでに、この付近は全然人いないから、いれても大丈夫なら、言ってね!!あ、さすがに二日ともは駄目かな?」
「えっと…その、ちょっと、考えてみます…」
なんてことがバイト先であって。
まぁクリスマスは一応イブも入れれば二日間あるし、一日くらいいいかなって思ったのと。
いつもそっけないレンが、どんな反応をしてくれるかなって、ふといたずら心が働いてしまったのとで、
つい店長にシフトをいれるのをOKしてしまったのです。
そして、レンにこのことをメールで告げてみると、
入れないで、とか。嫌だ、とか、言ってくれるかなって、ちょっと期待してたのだけど。
実際は。
「ふぅん、しょうがないんじゃん?ま、リンお人よしだしね。」
なんて。
特に落ち込まれることもなく、淋しがられることもなく…。
味もなーんにもない、そっけない文体で。
なんともアッサリと納得されてしまったのである。
ちょっとばかし変に期待なんてしちゃってた私には、想像以上にダメージだったみたいでして。
…レンにとっては、クリスマスなんて別に何にもなくって、
私ばっかり楽しみにしてて、うかれてたんだって事実を、突き付けられちゃいましたのです。
―――――あぁもう、ほんと
―――――私ばっかり、すきなんだなぁ…
こんなこと考えちゃうと、なんだかもう悲しくなっちゃって、
そうして、後に引けなくなっちゃうのがわたくし鏡音リンでありまして。
結局…
「まさか…ここまでハードスケジュールになるとは…」
23日から25日までの三連休、ぜーんぶ日中にバイトを入れてしまったのである、まる
ついでに言うと、12/22までは大学の絶賛中間試験期間だったわけで。
学部が違えば、講義でなんか会えないし、一緒に試験勉強なんてできるはずもなく。
もう、ここ一週間くらい(いや二週間?)はレンに会っていなかったりするのです。はい。
さ、淋しいとか、会いたいとか、
…ちょっとは、おもっているのだけれど。
せっかく同じ大学にって頑張って、頑張って頑張ってやっと入れたのに。
この、試験期間のあえなさ加減に、ずーんって、なったりしてるのだけど。
…レンは、別に何も思ってないんだろうな。
とか
…あんまり、会いたくないのかな。
とか
そーんなこと思っちゃうと、自分からは何にもできないわけで。
今は、
「いらっしゃいませ!ポイントカードはお持ちですか?」
「お買い上げ2点で1227円頂戴します!」
「あっ鏡音さん!これ!赤で宜しく!!」
バイト中な訳なのです。
「うぁあ、忙しい…」
まわりに人がいないことを確認し、ふぅ、とため息をつく。
ほんとうに、いそがしいのだ。
クリスマス近くは、ラッピングだったり在庫の確認だったり発注だったり、
とにかく目まぐるしくものが動いていく。
目が回るくらい忙しいって、実際にあるのだ。
「っと!危ない、ぼーっとしてた」
余計なことを考えてたせいで疎かになっていた、手に抱えた商品を持ち直す。
あぶないあぶない、と思いつつ顔をあげると、
「あっこれかわいい!」
「…ほしいの?」
「うーん、でも…。うううかわいい!!えっとちょっと待ってて!買ってく」
「いいよ、まって。かして。」
「えっ…えっ!!ありがとう!!」
なんともしあわせそうな、ふたりぐみ。
会話からも花が出てるんじゃないかってくらい。
うん、リア充ばくはつしろよって、今この時のためにある言葉なんだな。
なーんて下らないことを考えつつ苦笑して、そっと通り過ぎる。
そうして、朝からずっと思い出している面影を、また、心の中で呼び起こしてしまった。
あいたいな、なんて。
自分でバイト入れたくせに、ほんと、ばかみたいだ。
ことわれなくて、そのくせいじっぱりで。すなおになんかなれなくて。
こんなだめだめな自分、愛想つかされたって仕方がない。
…もしかしたら、もう、きらわれちゃったかもしれない。
じわり、と目に涙がにじんでしまう。
それを誤魔化すために、なんとかするために、きつく口をかみしめて、手にしていた商品をぎゅっと抱え込む。
「わたしばっかり、すき…なんだね」
なんどもなんども思い浮かべていた言葉は、当然のように口に出て、…そうして、散って行った。
あぁもうほんとに、おおばかものだ。
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「お疲れ様でしたー、先あがります!!」
「はい、おつかれー!あ、雪降るみたいだから、気を付けてねー」
「…うげ、ほんとですか…」
「あははー、じゃ、また明日!」
「は…はい…。…また明日です。」
明るい店長さんの言葉に見送られて、外に出る。
と、もう六時を過ぎた12月。見事に真っ暗で、寒々しい風がひゅうひゅうと吹いている。
そうして、空をみあげると
「うわお…」
ちいさなまっしろいものが…雪が、降ってきていた。
「ホワイトクリスマスってやつですか…。」
リア中の皆さん、よかったねー。なんて呟いて、そのまま、見上げた格好のままで歩き出す。
すると
「おそい」
後ろから、なんだか聞きなれた声が。
はて、と思いそろりと振り返ると…
「素通りすんな、ばか。」
とってもとっても不機嫌そうな、レンによく似た…否、そっくりな人が、ドアの横に寄りかかっていた。
「???? え、…え、れ…れん?」
「他に誰に見えるってんだよ。」
「…で、ですよねー。えっいや、でもなんで…」
なんで、なんでなんで?
あんなそっけないメールだったし、別にそのあともなんにも連絡なかったし…。
…私のことなんて、気にしてないんじゃなかったの?
そんなことをぐるぐると考えていると、はぁ、というため息が上のほうから聞こえた。
恐る恐る顔をあげると、やっぱり、めんどくさそうなレンの顔。
…あぁ、呆れちゃってるかな。
…きらわれちゃう、かな…
そう思うと。怖くなって、徐々に頭は下がり気味になる。
それでも、ぐっと口をかみしめて見え始めたレンの靴のつま先部分をじいっと凝視していると。
「別に」
「っ?」
口を開くレンをよく見てみると、…想像と全然違う、優しそうな、あったかい、目。
あれ?
「別に、バイトって言ったって一日中な訳じゃないだろ。どうせ俺ら一人暮らしだし。夜なら一緒に過ごせるじゃん。」
「…。…っ?」
あれ、あれれ。
なんだ、私ってば夢でも見てるのかな?
うんそうだ。違いない。きっとほっぺつねってみれば…
「あれ、いひゃい。」
「…なにばかなことやってんの。」
「ひゃっだって…」
だってレンが優しすぎるんだもの。
そんなことを口に出せるわけもなく、もごもごと口を動かしていたら、
ぐいっと、引き寄せられるように。何かあったかいものに、手をにぎられた。
あったかいもの、…れんの、手に。
「?!!!なっなっ?!!」
「それに」
「?うん?」
手を握ったまま歩き出すレンに半ば引っ張られるように歩きながら、途中で言葉を止めたレンに促すように頷く。
と、
「ここ最近、試験のせいで全然リンといられなかったし。やっとの休みなのにリンといられないとか、ほんと無理。」
「〜っ!?!?!」
ぼふんっと、音が出そうなくらい急激に顔が赤くなる。
こんな寒いはずなのに、頬は、手は、きっと、湯気が出そうなくらいあつくなってる。
つまり、つまり。
レンは、別に、私に会いたくないとは、どうでもいいとか、思ってるわけじゃ、なくって。
多分、(というか確実に)私に…あいたい、とか。ちゃんと、思っててくれてるってことで。
それは、それは、
「ふっふふっ!」
「…りん、突然笑いださないで。気持ち悪い。」
「ふふふふふ。いーもーん。」
ずーっとバイトは忙しくって。
せっかくのクリスマスイブなのに、お外はもうまっくらで。
とってもとっても寒いし、雪だってふってきてて。
もう、どうしようもないくらい、はいいろの24日だったはずなのに。
「れーん」
「んー?」
「だーいすき!!!」
「っ」
きみが、迎えに来てくれて。
そうして、隣にいてくれて。きっと、想ってくれていて。
そのことのおかげで、こーんなにしあわせになってしまう自分は、
きみのおかげで、一気にこころもからだもあったまれちゃう私は、
きっと、相当のれんばかなんだろう。
でも、きっと、
「俺は、」
「ふぇ?」
「俺は、あいしてる、けどな。」
「っ!!!!!」
きみも、わたしも。ふたりともがおおばかもの
(ああもう、なんてしあわせなんだろうね!!)
おわろう
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リア充乙。だが鏡音充ならよし。
クリスマスらへんすべて学校+バイトだったので、鏡音変換して慰めてみた。
ま、私は二人みたいなリア充ではないですが、ね!!!