『お医者さんに言われる程甘い物好きなんだ…』
「ホラ、銀さん頭良いから頭使う機会が多くてさ…」


銀ちゃんの冗談を聞きながら出されたお茶を飲む、独特の渋みが舌に残る。
暫くすると銀ちゃんが頼んだチョコパフェが出され、銀ちゃんが待ってましたと言わんばかりにスプーンを取ろうとしたその瞬間、


ドガシャン


何と店員さんが転けたのか私達がいたテーブルに突っ込んで来た、お陰様で銀ちゃんのチョコパフェがパーンである。


『大丈夫…?』
「…………はい」


それにしても気に食わないのは私の後ろに座っていた天人だ、話が耳に入って来たけど元侍の店員さんの足を引っ掛けたんだと思う。
悲しい事に私達人間は天人には逆らえないみたいで、店長さんは店員さんを謝れ!と雑に扱った。


『ちょっと…
「おい」


私がカチンときて店長さんに喝を入れようとしたその前に銀ちゃんが店長さんを持っていた木刀で天人のいるテーブルへ吹き飛ばした。
びっくりした天人は銀ちゃんに目を向け怒声を浴びせるが銀ちゃんはチョコパフェを台無しにされた事の怒りしかなく、叫んでた天人をみんな吹っ飛ばしてしまった。


「店長に行っとけ、味はよかったぜ」
『銀ちゃんやり過ぎ、すっきりしたけど…てかチョコパフェ食べたっけ?』
「男は格好付けたい生き物なの」


木刀を店員さんの腰に差して銀ちゃんは早足に原付に乗り込む。


『木刀、良かったの?』
「…………あ〜やっぱダメだなオイ、糖分とらねーとなんかイライラす…
「おいィィィィ!!」


あぁ成る程、木刀を店員さんに預ける事で身代わりにしたわけだね、頭良い!
どうやら役人に疑われてしまった店員さんはここまで逃げてきて私達に追い付いたみたいだ。


「違うって言ってんのに侍の話なんて誰も聞きゃしないんだ!!!
しまいにゃ店長まで僕が下手人だって、」
『あらまぁ…』
「切られたなそりゃ、レジも打てねェ店員なんて炒飯作れねェ母ちゃんくらいいらねーもんな」
「アンタ母親をなんだと思ってんだ!!」
「バイトクビになったくらいでガタガタうる…
「今時侍雇ってくれる所なんてないんだぞ!!
明日からどーやって生きてけばいいんだチクショー!!」
『ぎ、銀ちゃん…!!』


キィィィィ
ゴッキン


「う゛っ」


急にブレーキをかける銀ちゃん、前のめりになって怖かったー…てか、うわぁ…痛そう…ゴッキンて…


「名前結構胸あるんだねェ…」


ゴキッ


「イテェェェェ!!
しょうがないじゃん!不可抗力じゃんんん!!」
『鼻血出して言う事がそれか』


取り敢えず話を戻し、店員さんと大江戸ストア前で叫び合ってた時、中から美人な女の人が。


「げっ!!姉上!!」
「あ…どーも」
『こんにちは…』
「仕事もせんと何プラプラしとんじゃワレボケェェ!!」
「ぐふゥ!!」
「今月どれだけピンチかわかってんのかてめーはコラァ!!
アンタのチンカスみたいな給料もウチには必要なんだよ!!」


………銀ちゃん、あれ謝った方が、と言う前に銀ちゃんが原付で去って行く。
なんつー男だ、と思っていたら女の人の方が早かった、見ていた私もびっくりするくらい早かった、一瞬だった、いつの間にか銀ちゃんの後ろに…


「いや、あのホント…スンマセンでした。
俺もあの…名前ちゃんの前だったんでちょっと格好良い所見せたかったというかポイントあげたかったっていうか…調子に乗ってましたスンマセンでした」
『最後の私を置いていった事でポイント上がるどころか下向なうですよお妙さんごめんなさい』


所変わって店員さん新八君と女の人お妙さんの道場、私達は2人の前で正座中。


「名前ちゃんはいいのよ、新ちゃんもグラス拾ってくれて助けてくれたとか言ってるし。
問題は隣、ゴメンですんだらこの世に切腹なんて存在しないわ、アナタのおかげでウチの道場は存続すら危ういのよ」


鎖国を止めた日本、天人の来航、廃刀令の発布で門下生はいなくなり、お妙さん姉弟のお父さんの形見である道場は危険な状態。
でも何とか繋ぎ止めていたのに、私達のせいで全部崩れてしまったお妙さんは鬼の様に怖い。
銀ちゃんも銀ちゃんで何も出来ないのに良い格好しいな事言うから2人から攻撃されてるじゃん…あら、見るも無残な銀ちゃん。


『大丈夫?』
「姉上…やっぱりこんな時代に剣術道場やってくのなんて土台無理なんだよ。
この先剣が復興するなんてもうないよ、こんな道場、必死に護ったところで僕らなにも…
「損得なんて関係ないわよ。
親が大事にしてたものを子供が護るのに、理由なんているの?」


お妙さんの意志の強い言葉に尚も反論しようと新八君が叫んだその時、乱暴に扉を蹴倒し入ってくる天人と思われる三人組。
その真ん中にいた一番偉そうな天人が金を返してもらうと叫んだ、どうやらこの天人は新八君達のお父さんがつくった借金を取りに来た借金取りらしい。


「こっちはお前らのオトンの代からずっと待っとんねん!!もォーハゲるわ!!
金払えん時はこの道場売り飛ばすゆーて約束したよな!!あの約束守ってもらおか!!」
「ちょっと!!待ってください!!」


かなりイラついている天人はこの新八君やお妙さんが大切にしてきた思い出の詰まった道場をボロ道場、しかもお父さんの事さえも侮辱し始めた。
その事に頭に血が登ったお妙さんは一番偉そうな天人を殴ってしまい、床に叩きつけられてしまう、しかも一番偉そうな天人が殴りかかろうとしている。


『何してん
「そのへんにしとけよ、ゴリラに育てられたとはいえ女だぞ」
銀ちゃん…』


ゾクリとさせる銀ちゃんの雰囲気に天人も殴りかかろうとするのを止め、銀ちゃんや私の事を門下生だと思い込み道場を諦める。
が、その代わりお妙さんに働いてもらうと言い出した、こいつ…!!


「コレ、わしなァこないだから新しい商売始めてん、ノーパンしゃぶしゃぶ天国ゆーねん」
「ノッ…ノーパンしゃぶしゃぶだとォ!!」
『趣味悪ぅ…っ!!』


しかも遊廓は江戸では禁止されているのに空では良いと屁理屈みたいな理由で飛行船でやっているみたい。
道場を売るか、自分の体を売るか、2択を迫られたお妙さんは迷わず自分を差し出した。


「ちょ…姉上ェ、なんでそこまで…」
『銀ちゃん、いいの…?』
「…………」
「姉上!!」


黙って見ている銀ちゃん、新八君の声に振り向くお妙さん。


「新ちゃん、あなたの言う通りよ、こんな道場護ったっていい事なんてなにもない、苦しいだけ…
……でもねェ私…捨てるのも苦しいの、もう取り戻せないものというのは、持ってるのも捨てるのも苦しい。
どうせどっちも苦しいなら、私はそれを護るために苦しみたいの」


去ろうとするお妙さん…こっこんなの絶対良くないのに!!
銀ちゃんが動かないなら私が動いてやる!!


『わ、私も門下生だしっ、お妙さんと一緒に働く!!』
「なぁ!?名前!?」
「名前ちゃん…?」
「名前さん!?」


わたわたする銀ちゃんを無視して私は一番偉そうな天人に近づく。


『私じゃぁ…役不足…?』
「!!
えぇなァえぇなァ!よし、お前も今日からノーパンしゃぶしゃぶ天国の看板娘や!」


心の中で天人に舌打ちしながら未だ信じられない、という顔をする銀ちゃんに振り向く。
だって銀ちゃん止めるのかなと思ったら動かないし、なら私が動くしかないじゃない。
今なら銀ちゃんとも出会ったばっかだし恩はあるけどすぐに忘れてくれるだろうし大丈夫。


『恩はいつか返すから安心して!
じゃあ短い間だけど、お世話になりました!』
「ちょ…!はぁ!?」


銀ちゃんにグッドラックサインしてお妙さんと一緒に車に乗り込む。


「良かった、の…?」
『大丈夫!私、どうせ行く当てもない状態だったし、お妙さん、放っておけないよ…』
「名前ちゃん…」


お妙さんの手をギュッと握ってこれから体感するであろ地獄に身を構えた。



(お前わしの女になるんやったら働かんでもえぇで)
(断固拒否)





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