『あー…重い…』


流石に10sのお米を4袋抱え込むなんて無理があったかと後悔しながらスーパーの帰り道を摺り足で進む。
何故こんなに買い込むんだと聞かれたら神楽ちゃんが、としか言いようがない、神楽ちゃんは夜兎っていう種族でとても食べるのだ。
まぁ自分の作ったモノを美味しそうにいっぱい食べてくれるのはとっても嬉しいんだけど…あんなに食べるのだ、ふりかけご飯でも良い気がする。


「大丈夫ですか?」
『………え』


突然声を掛けられ少し驚きながら振り向くと、銀ちゃんより背が高いであろう男の人が立っていた。
少し伸びた黒髪と見間違えそうな茶髪、長い前髪から覗く深緑、顔は…そう、整った顔立ちというのが正解だろう。


「………いや、とても重そうなので余計な事かも知れませんがお手伝い出来ないかな、と…」
『え………い、いいんですか?』
「はい、方向は一緒なんで」


ニコリと綺麗に笑う男の人、尚仁さんは三袋も持ってくれた、何でかはわからないけどとても助かった。
銀ちゃん達に一人で大丈夫とは言ったもののまさか今日がお米の安売りだとは…まぁ何にせよ尚仁さんに感謝だ。


『人を探してた?』
「はい、この近くに住んでいまして」


綺麗な女の人らしい尚仁さんが探してた人はとても遠い所から江戸に来たみたいで尚仁さんはその女の人の様子を見に来たらしい。
恋人かと聞けば尚仁さんはニッコリ微笑んで違うと言っていたのでそれ以上は聞かない事にした。


「その人は小さい頃に両親を亡くしていまして、ずっと一人暮らしをしていたんです」
『………そうなんですか…』
「……形見も両親の財産しか無かったみたいですし…」
『そんな……』


自分と良く似た境遇の女の人に、合った事もないのに同情してしまう。
私も、形見は両親の貯めていたお金しか無かったから…でも私はツナ達がいたから…まだ、


「ほらツっ君!貴方も挨拶しなさい!」

「うん……お、オレ沢田綱吉っていうんだ………えと、ツナって呼んで、よろしく……」

「……よろしくね、ツナ君」










きっと、ツナがいたから今のがいるんだ。











「―――……さん?」
『………あ』
「名前さん?大丈夫ですか?」
『あ、大丈夫です、ちょっと昔を思い出しちゃって』


昔ツナに初めて会った時の事を思い出してボーッとしていたらもうすぐ万屋だった。
心配してくれた尚仁さんに申し訳ないと振り向いた時、今までとは違う尚仁さんの雰囲気に思わずお米の袋を落としてしまった。


「……どうせ、沢田綱吉の事でも思い出していたんだろう?」
『……!?』
「此方の世界にドップリかと思ったが、そうでもなかったんだな…可哀想に」


ゾクンゾクンと背中に気持ち悪い感触が通る、知っている、この人は私がこの世界の住人ではないと。
何故かはわからない、でもこの口振りとツナの本名を知っている辺り間違いない…
ジリ、と刀を抜く構えを取るが尚仁さんはそんな私を見て嘲笑うかのように鼻で笑った。


「くっ…抜けない刀を構えるなんて、間抜けがする事だな」
『!』
「………まぁ落ち着いてください、今どうこうしようと考えてる訳ではないので」
『………それって、次会った時どうなるか分からないって意味よね』
「まぁ、否定はできない、ですかね…本当に今日は様子を見に来ただけなんで何とも言い難いです」
『………』


心の中でこの野郎…とは思いながらも私の力では尚仁さんには適わないだろう。
抜けない刀、いや抜けても私には使えない刀で戦える程器用じゃないし、今は大人しくしておくのがいい。


「……いや、違いましたね。
名前さんに抜けない…いえ、出来ない事はないでしょう?」
『!!
………どこまで、知っているの』
「………さぁ」


我慢出来なくなって拳を握ったその瞬間だった、後ろの方から爆音が聞こえてくる。
振り返ると川の向こう岸に銀ちゃんの原チャリが見える、が乗ってる人は銀ちゃんじゃない。
しかも橋の上にはお登勢さん…ま、まさかとは思うけど…


『おとせさ…
「待て」


不意に尚仁さんに腕を掴まれ前に進もうとも進めなくなる、お登勢さんが…と言おうとすると銀ちゃんが原チャリに乗ってる人を殴り飛ばした事で杞憂に終わる。
まさか、全てを知って…振り返って尚仁さんを見ると私に向かって笑った。


「ね?」
『……何が言いたいの』
「干渉は出来る、でも未来を変えられる訳ではない」


言葉の意味が理解出来なくて黙っていると尚仁さんはおもむろに私の耳元へ口を寄せた。
それはまるで母親が子供においしい事を教えてあげる時のように……


「決着はいつも誰がつけてるかな?」
『……!!』

















新ちゃんとお妙さんの時。

「客の大事なもんは俺の大事なもんでもある、そいつやうちのバイト護るためなら俺ぁなんでもやるぜ!!」


長谷川さんの時。


「幕府が滅ぼうが国が滅ぼうが関係ないもんね!!
俺は自分の肉体が滅ぶまで、背筋のばして生きてくだけよっ!!」


神楽ちゃんの時。


「ったく手間かけさせんじゃねーよ!!
名前!死にたくなかったら踏張って立ち上がれェェェ!!」
『銀ちゃん………!!』

















ドクン、胸が騒つく。


「所詮此処はお前の逃げ場所だ、本来の居場所ではない」
『………だから、私は、』
「戻ろうとしている?
………くっ、戻ろうとしている、ねぇ」


言い返したいのに、出来ない、それは尚仁さんの言う事が全て合っているからだ。
無意識の内に唇を噛んでいると尚仁さんの指が私の唇に触れ少し出ていた血を拭った。


『…………』
「お前の選択は正しい。
このまま生温い湯に浸かっていれば良い、湯から出れば待っているのは現実の寒さだけだ」
『貴方は、何がしたいの』
「お前のそれに用があるとだけ言っておこう」


その言葉を最後に尚仁さんは私から離れ今まで来た道へ消えていく。
多分これから尚仁さんに会う事が何度かあるだろう……会っても良い事はないだろうけど。
暫くそこに立ち尽くしていると警察がやってきて原チャリに乗っていた人、不法入国者が連れて行かれていく。


『………銀ちゃん』
「名前?何してんだこんな所で」
『それはこっちの台詞だよ?お登勢さんまで…』


私がそう言うと銀ちゃんはそうなんだよ!と今まであった事は話してくれる。
だけどそれも耳に入らず、その後どうやって万屋に帰ったのかもわからない。
ただただ、私の頭の中で尚仁さんの言葉がリピートしていただけだった。


「………名前」
『銀ちゃん…ごめんね、心配かけて…大丈夫だから』
「お前に何があったのかは聞かねーよ。
ただ、本当にダメんなった時は銀さんに話せよ」
『………うん』


銀ちゃんの優しさがこの上なく心地好い、ただそれと同時に尚仁さんの言葉が刃の様に突き刺さる。


「お前の選択は正しい。
このまま生温い湯に浸かっていれば良い、湯から出れば待っているのは現実の寒さだけだ」



………もし、元の世界に戻ったら何かがあると言うのだろうか?
いや、違う、何時も通り…ただあの日はちょっと特別で…ただそれだけなんだ。
そう自分に言い聞かせる事で私は考える事止めた。


いずれ来るその時まで。


(名前、私車の運転に目覚めたかも知れないアル!)
(……新ちゃんが全力で首振ってるけど?)





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