宮田司郎
初日/03:14:27
蛇ノ首谷/折臥ノ森
叫び声という名の奇声に目を覚ました俺の目に飛び込んで来たのは、穴に入った少女。
穴には埋めていたはずの恩田美奈の姿もない、あるのは穴で何か葛藤している少女の姿のみ、何故穴の中なんだ…?
あまりにも信じられない状況に声を漏らすと少女は驚いたような表情で此方を見上げた。
『…むっ、麦茶か緑茶、どっち派ですか…?』
「………」
何が言いたいのだろうか、取り敢えずここで答えておけば此方からも質問しやすいだろう。
余りに下らない質問に適当に答えれば真剣に受け取ったのだろうか少女は心底驚いた表情を見せた。
取り敢えずこの少女は観光しに来たらしく(物好きだ)その折にこの状況に巻き込まれたらしい。
怪しい感じはしない、それにこの少女は恐らく幻視出来ないらしい、これなら、まだ引き返せる。
まぁその前に穴から出てもらわないと話は進まないのだが。
「……そうですか。
そういえばいつまでその穴に入ってるつもりですか?」
『あ、はい…そ、そうですよね。
そういえばこの穴大きいですね、まるで人一人を埋めようとしてるような…』
「……そうですね」
何だ……いきなりこの馬鹿な少女の雰囲気ががらりと変わった。
びりびりと空気が張り詰める、この少女は、俺を、見透かしている…?
『こんな大きい穴はあるのに埋めるモノがないって事は…
……上手に、埋められませんでしたね、死体』
「!!」
今、この少女は完全に俺が何をしていたかわかっている表情をしていた。
知っている…どうしてかわからないが、俺が恩田美奈を殺した事をこの少女は、知っている…
危ない。
俺の脳内に警告音が鳴り響く、殺した方がいい、俺の手はもう汚れているのだから。
俺自身が望んで汚れたわけじゃ、ないんだがな、などと頭の片隅のどこかで考えながら、そう決めた瞬間、
『ひやぁあああ!!
あっああああああ危ない!!!』
「!?」
完全に少女に意識を向けていたのが悪かったのか、後ろから迫った屍人に気づかなかった。
俺にしかわからない程度に舌打ちをして、屍人に殴りかかろうとしたその瞬間。
バンッ、バァンッ
『ひぃいいいい…』
「………!!」
二発響いた銃声の余韻が鼓膜を震わせる…
少女が、銃で屍人を撃った…しかも何で撃った後にお前が悲鳴をあげるんだ。
「……何で助けたんですか。
私は、無抵抗の貴方に殺気を向けたんですよ。
しかも貴方は持っていた銃で対抗できた筈だ」
『だっだだだだって、冗談でそこまで怒るとは…
いやこんな冗談は効かないか…でも私が悪かったんですし。
それに今は貴方よりこいつの方が滅茶苦茶怖かったです!!』
「………」
怖かったを強調する意味があったのだろうか。
兎に角あの雰囲気は俺の勘違いだったらしい、それはそうだ、こんな馬鹿で、馬鹿な少女なのだ。
「兎に角、私は此処から移動しますが、貴方はどうされるんですか?」
『ふわわっ!
わっ私は…他に誰かいないか探します、はい』
「そうですか…」
まぁ銃を持っているし大丈夫だろう、こういう人間は図太いから生き残れるだろう。
仮に生き残れなかったとしても俺には関係のない事だ、否関係を持ちたくない。
取り敢えず撃たれた屍人が生き返る前に立ち去ろう、そう決めて少女に背中を向けた時だ。
『あ、あああの宮田先生!
お気をつけてくださいね…!!』
「……!」
…何故、俺の名前を、
振り向いたその先には少女はいなかった───……
疑惑アンチテーゼ。
(一体、何者なんだ)