(平介と長谷)
諦められない恋をしている。もうすでに、終わったことであるのに断ち切ることはできない。そして、断ち切らなくてもいいと思っている。ずっとずっと、私は焦がれているのだ。
体調が悪くなって早退することにした。先生に一言告げ、友子ちゃんに惜しまれながら、校門を抜ける。まだ昼間の街を制服で歩くのは少し気が引けた。普段なら心地良いはずの太陽も今は眩しくて、目を瞑る。
(あ、ら)
くらりと世界が揺れて、そのまま立っていられなくなる。倒れてしまう、制服が汚れる、と検討違いのことを思った。
「……」
「っぶな……いよ」
あれ、と思ったときには体に衝撃は来ず、クラクションを鳴らした車が目の前をすごいスピードで通り過ぎていった。何があったのか理解できないまま、私の体を支える温かみに顔を上げると、そこには片目の隠れた、焦がれるそのひとがいた。
「……せんぱい?」
「いま、轢かれるとこだったよ」
「え」
「いやあ、急に倒れるから、ふらりと。思わず走っちゃったよ、うん」
走った?先輩が?どうして?私を助けるため。
いまいち頭の中で繋がらないまま体制を立て直す。もう一度正面から見てもやはりあのひとだった。
「それじゃ、気をつけてね」
「あ、……ありがとうございました」
「気にしないでー」
そのまま怠そうに歩いていく後ろ姿を見つめる。くらり、揺れる。熱が出てきたようだ。(はやく、帰らなくては)そう思うのに体と視線は動かない。どこまでもいつまでも、私はあのひとを追っている。私のことを覚えていないあのひとに、私はずっと恋をしている。ずっと待っている。
いつか、思い出してくれるのではないかしら。大した思い出なんかないけれど。それでも、一度出会っているのだから、出会いは、たった一度しかないのだから。
(くだらないプライドだわ)
何度朝が来てもあのひとが私を思い出さないと、知っているのに。
まちぼうけのあさ