(平介と鈴木)
ひとりぼっちの恋をしている。決してそいつが振り向かないと知っている。諦めようとするのに、ほんの少しの希望を捨てられないまま、今に至る。
「鈴木、ノート」
「だァら、俺はノートじゃねえって何回言わせる気だ」
「やだなあ、わかってるくせに」
「鈴木、ノート!」
「ほらきた」
「……」
邪気のかけらもないのが余計腹立つ。とりあえず二人に反論してみるものの、どうせ最後にはこのノートを差し出すことになるのだ。それくらい、俺にだってわかった。それでも反論しているのは、なぜだろうか。
「ごめん!今日虎太郎が熱出したみたいでさ、面倒見なきゃだから先帰るね!」
佐藤が両手を合わせて早口でそう言い、教室を飛び出していく。残されたのは俺、と、平介。
「……だって」
「聞いてたっつの。帰るか」
「おれケーキ屋寄りたい」
「知らん」
先に歩き出した俺に並ぶことなく、後ろからたらたらと付いて来る音がする。平介はそういうやつだ。わかっている。
校門から出たときはすでに横に並んでいた。佐藤がいない帰り道は久しぶりで、隣に伸びる長い影をぼんやり見ながら歩く。背が高いというより長いという表現の似合う友人(?)は、何を考えているかよくわからない。ついでに、何を言っているかもよくわからない。なのに俺はこの数年間、ずっとこいつに言葉を投げて、それがうまく返ってきたことなんかほぼ皆無なのに飽きもせず繰り返して、繰り返して繰り返して繰り返して。
「あ」
なんか言ったか、と顔を上げかけた瞬間頭にすごい衝撃が来てよろめく。視界がぐらぐらと揺れて立てなくなって、仰向けに倒れた。空が赤い、夕焼けだ。いやいやそれはどうでもいい。痛い。頭がすげえ、痛い。何が起こったのか訳もわからないまま、動けないまま、ああきっと俺は今酷く情けない格好をしている。
視界にさっと横から入り込んだ平介が、大丈夫?と心にもない言葉を吐く。案の定顔はいつも通りのほほんとしていて、殺意が芽生える。
「……いま、何が」
「ぶつかった、電柱に」
「……は?」
「うん、だから、下ばっか見て歩いてた鈴木さんが、気づかないまま電柱にぶつかりました」
「おま、……助けろよ」
「いや、あ、って言ったんだけど、遅かった」
あの「あ」はその「あ」かよ、もっと必死に止めろよ、ばかじゃねえの、バカジャネエノ。頭がぐわんぐわんと揺れている。ものすごい衝撃だったよ、と平介が遠くで言っている。おまえ、何言ってんの。わかんねえよ。よく、わかんねえ。宇宙人と話してるみたいな気持ちになる。だっておまえに俺の言葉、通じないし。おまえの言葉も俺はよくわかんねえし。一人ぼっちの宇宙にいるみたいだ。真っ暗な、ところで。
なのにおまえに言葉を投げるのは。
「……おまえほんと意味わかんねえ」
「え、いまおれ、鈴木の心配してるんだけどね?」
視界が平介でいっぱいになる。そう、まさに、これだ。俺ばかり。俺ばかりだ。
まっすぐみつめて