(男鹿と古市・やや注意)



荷物を纏めて外に飛び出す。今日のために新しく買ったスニーカーはまだ足に馴染まず、小指が押されて少し痛む。市街地の方に走ると真っ暗な世界にネオンがきらきら光って綺麗だ。眩しくて、目を眇める。それすら可笑しくて、声を上げて笑う。楽しい、楽しいなあ!


男鹿が死んだ。案外あっさり喧嘩に負けて死んだ。死体は見ていない。見る気もなかった。あれだけ最強だ、悪魔だと恐れられた男鹿もしょせんは人間で、首を刺されたら死ぬわけだ。普通。そうあいつは普通の人間だった。最強だ悪魔だと肩書きを付けてあいつを遠ざけたのは周りだったのだ。ていうか、おれだった。

おれは男鹿が好きだった。ような気がする。多分そうだ。実は、自分でもよくわからない。ただあいつの周りにおれ以外がいるのが嫌だった。だから、遠ざけた。おれだけのものでいてほしかった。高校でたくさんの仲間ができて、でもみんな「喧嘩の強い」男鹿と付き合ってるだけで、男鹿本人を見ているやつは誰もいなかった。おれ以外は。おれはあいつの最後の砦だった。

なのに、死んじまった!あっさり!泣いたのは、男鹿の家族と、邦枝先輩と、ほのかと、えーと、?あんまり覚えていない。おれは泣かなかった。悲しくなかったのか、と聞かれたら、よくわからない。うん。わからないんだ。おれの中身は、何もないから、わからないんです。

そう、そうだ、おれには何もない、し、元から何もなかった、おれにあったのは、あいつが、男鹿が、必要としてくれただけなんだ!そうだった!そうだったんだ!おれは男鹿の最後の砦で、男鹿はおれの「おれのさいごの」


「!」

目が覚める。どうやら眠っていたようだ。部屋はひんやりと寒い。そしてはっと気づく。こんな暗いところでじっとしていても意味がない。何もないのにそこから何かが生まれるはずがない。だからそうだ、飛び出そう。おれは、荷物を纏めて、家を飛び出した。こんなとこで腐ってないで、自分からチャンスを掴まないと。おれはしあわせになるんだ。しあわせになれよって男鹿に言われたもん。だからしあわせになるんだ。しあわせになるんだ。しあわせになるんだ。しあわせになるんだ!

「ひゃっほう!」









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BGMはタイトルと同曲。某アニメのカバーで知りました。本当の歌詞解釈は全然ちがうと思うんですが…なんか病んでるみたいになってしまった。この曲聞いてると、夜中にネオンが光る街にぴょーんと走っていく古市が浮かんだので書きました。このふたりはふたりとも不幸だ。



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