(男鹿と古市・死神パロ)



「……」

「……」

「……なあ」

「……」

「おい古市」

「なに」

「おまえなんか怒ってんのか?」

「怒ってない」

「……」

「……」

「……古市」

「なに」

「キレてんのか?」

「怒ってもキレてもない!」

平日の昼下がり。いつものように屋上で昼飯を食べていた。あの日から、どうも男鹿に対してのもやもやが溜まっている。別に男鹿のせいじゃないけど。

「なんだよ、突然キョドりだしたと思ったら今度は冷たくなりやがって……あーあれか?高島にボコボコにされて頭おかしくなったか?」

「頭おかしくもなってねえし冷たくもなってねえ!ごちそーさま」

これが勝手なわがままだということは充分わかっていた。けれど、なぜだかむしゃくしゃしていた。あの日からずっと。なぜかはわからない。何度も自問自答を繰り返す。なんで?男鹿が人間じゃないから?おれが死神じゃないから?いくら好きになっても、報われることがないから?……それなのに、男鹿は簡単に「一生」とか言ったりするから?

弁当を片付けて教室に戻ろうとすると腕を引かれる。イライラしたような顔の男鹿がそこにいた。

「なんだよ、勝手にイライラしやがって。こっちはな、説明してもらわねーと意味わかんねえんだよ」

「だから、イライラなんかしてねーし。おまえじゃん、イライラしてんのは」

「っはあ?!明らかにてめーの態度がおかしいからこういう話になってんだろ!俺がなんかしたならはっきり言えよ!勝手に解釈してイラつかれてたらたまったもんじゃねえ!」

「だからそんなんじゃねえって!気にすんなよ、おれはイライラもしてねえしおまえも何もしてねえ。……それで良いだろ」

「じゃあなんでそんな泣きそうなんだよ!」

息が止まるかと思った。こいつはいつだってそうだ、ひとが隠そうとしていることを平気で暴く。泣きそう。泣きそう?なんで?誰の、せいだと。

「っ!」

掴んでいた男鹿の手を剥がして黒い手袋を剥ぐ。そのまま手に触れようとした瞬間、体に衝撃が来て後ろにひっくり返った。まだ治りきっていない傷が痛みに軋む。

「……っ、あ」

男鹿を見る。しまった、という顔。おれの頬はひりひりと痛んでいて、口に血の味が広がる。男鹿に殴られた。その事実は、高島の一発より何百倍も重かった。

「て、……っめ、何しやが、」

「そういうとこがムカつくんだよ!」

反動を付けて起き上がり、少し高い位置にある男鹿の襟首を掴む。男鹿は心底困惑した表情でおれを見た。純粋な黒に混じる銀。戸惑いの色。

「踏み込ませない領域があるくせに簡単に一生とか言いやがって!その言葉言われたおれの気持ち考えたことあんのか!一生一緒にいるって言ったよな、じゃあ連れてけよ!その右手でおれに触って、そのまま連れてけよ!それもできないくせに簡単に言ってくれるな!嘘つき、っうそつき!」

何言ってんだ、おれ。こんなのただのわがままだ。男鹿は悪くない。ただおれが混乱して、ああ、好きだ。好きだよ。好きだ、おが。おまえが好きだ。まっすぐな瞳も強い心も寄り添う体も、すべてが好きだ。好き、好きなのに、どうしておれたちは同じ種族じゃないの。どうして手放しで一緒にいられないの。どうしておまえの肌を、感じることが出来ないの。

きっと最初から好きだった。猫を撫でる青年、絡んだ視線。二度と離せないと本気で思った。まっすぐで、嘘偽りのない瞳。おれに無いもの全てを持って、笑っているひと。憧れと、それからほんの少しの妬み。惹かれていた。ずっと。おれを見てくれた、初めてのひと。

「……なんか反論してけよ、ばかおーが……っ!」

襟首を掴む感触は消えていた。残されたのは、いつかと同じ、あの一枚の羽。

男鹿が好きだ。おれは声を上げて、泣いた。









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